アカイトリ
颯太が傷を負って三日目。

隼人から譲り受けた塗り薬を持って蘭は颯太の元へと向かった。


…朱い鳥は、日中は現れない。

ここ数日…颯太が傷を負ってからは特に姿を現さなかった。


だが夜になると、颯太の部屋で、颯太に愛されているのは知っている。

…もはや屋敷中の皆が。

具体的なことを聞くには耐えないので、話に花が咲く使用人たちからは最近距離を取っていた。


「あら、颯太様…どうして起きてるんです…か?」


知らない男がやたら颯太に密着して座っていた。

そしてやや距離を置いて憮然とした表情で楓がそれを見ていた。

少し手前で立ち止まった蘭に颯太が気付き、手招きをするのでさらに近付いてみる。


「うわ…っ、すごく綺麗…」


綺麗、というには颯太とは正反対で、男らしく精悍な部類だ。


「蘭、これは神の鳥・黒い鳥の子の凪だ」


「…は?この人も…神の鳥?!」


――天花に引き続き、二人…というより二羽目の珍鳥。


ぽかんと口を開いたままの蘭を見て凪がけらけら笑った。


「まあそうなるよな。母は人間だから出自は颯太と同じさ。まあよろしく」


馴れ馴れしく蘭の手を取ろうとした所に、楓が近寄り、ばしっと剣の鞘で手を叩いた。


「触るな」


「こらっ楓、失礼な!申し訳ありません!」


蘭は知らない。

この凪が颯太を殺そうとしたことを。


だが楓は黙っていた。


「凪。碧が遺した書物がある。お前が知りたいこと、全てが記されているはずだ。読んでくれないか?」


「ああ、いいぜ。ちょうど俺もそれを言おうと思ってたんだ」


蘭は仲睦まじい二人に笑みを誘われつつ、颯太の隣に座して俯きながら尋ねた。


「颯太様、塗り薬を持ってきました。浴衣を少しずらしてください」


「ああ」


恥ずかしがることなく颯太は浴衣をずらし、傷を見せると、蘭は悩ましい颯太の香りと身体に赤面しつつ薬を塗る。


「…ほうほう、これはこれはお前もか。颯太、お前は悩ましい男だな。俺をも悩ませてくれる」


「?意味がわからないな」


手早く塗ると、脱兎の如く蘭はその場から立ち去った。


「…あの人たちと居ると空気が薄くなる気がするわっ」


大きく深呼吸をした。
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