アカイトリ
「先ずは服を着る、という所からはじめなければいけないな」


怪我をした時に運び込まれた部屋に再び連れられ、颯太は天花にかけてあった白い浴衣を楓から受け取ると、彼に退出を命じた。


何も言わずに楓が部屋を出て行く。


「服…?」


「着たことがないか?」


そういえば、昨夜も着せられていた。


服など着たことがない。


――颯太は裸体で立ち尽くしている美しい女…天花に多少どぎまぎする。


「冬はどうしていた?服を着てなかったら相当寒かったろう?」


「…冬は、暖かい国へ渡っていた。寒さなど感じたことはない」


そうか、と相槌を打ってろうそくに灯を点す。


「とりあえず着せ方から教えてやる。この屋敷にその格好で歩かれると、色々面倒なものでな」


天花は女にしては背が高いが、颯太は見上げなければいけないほどにさらに大きい。


「両腕を広げて。まずは袖を腕に通してだな…」


一先ず言われるがままに両腕を広げた天花の首に巻きつけられている鎖がじゃらり、と重たい音を上げた。


「…痛いか?」


「痛くはない。わたしを早く解放しろ」


「お前もたいがいしつこいな。色々聞いてからと言ったろう?寿命がないんだからそう焦るなよ。俺の一生など、お前からしてみれば一瞬だろう?」


――天花はするりと腕を通ってきた気持ちよい絹の布の感覚に、うっとりと瞳を閉じた。


ああ、これが服を着るということなのか。


「まるで赤子を相手にしているようなもんだな」


颯太が天花の前で中腰になって、前を合わせてやる。


その豊かな胸の盛り上がり。

ひどくくびれた腰。


「こんな生き物がまだ存在していたとはな…」


ちょうど目線の高さだった天花の臍を唇でなぞる。


びくり、と身体が動いた。


「・・・気持ちいいか?」


「何をする、やめろ」


今度は舌で上下になぞってみた。


「…っ」


「気持ちいいか、気持ち悪いか、どっちだ?」


天花は何をされているかよく分からなかったが、気持ち悪いものではなかったので素直に答えた。


「気持ち悪くは…ない」


それを聞いて颯太は腰を上げると帯を締めてやる。


「全てを教えてやる。人としての生き方を」


…人の生き方など、学びたくはない。


天花はじっと碧の末裔を見つめた。
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