アカイトリ
「神の…居所ねえ……」


腕を組みつつしばらく考え込む凪の表情を颯太は注意深く見守っていた。


「そんなの聞いてどうすんだよ」


「天花の…そしてお前たち全ての神の鳥の呪いを解くためだ」


――凪は破顔した。

予想外の、そして相変わらず一切自身を省みない答えに口をつぐむ。


「神の呪詛から解放されればどれだけ自由に生きれるか…凪、お前は考えたことはないか?」


――凪は異常なまでに颯太に接近し、ぴたりと肩をくっつけた。


「俺はてっきり延命の方法を聞かれるのかと…」


今度は颯太が破顔した。

口許にやわらかい笑みを浮かべ、密着した肩を肩で押した。


「延命か。多少延びたところで皆を悲しませるだけだ。それくらいならば潔く逝きたい」


ふいに凪は今にも泣いてしまいそうな感覚に襲われた。


つい先日まではその命を狙っていたのに――…


「…神の居所は知らん。永い眠りについていると親父は言っていた」


凪がごろんと寝転ぶと控えていた楓が血相を変えたが、颯太はそれを手で制した。


「眠りにか。何故だ?」


「全てを無に帰すために起こした大洪水の後、しばらくは親父たちも楽園に居たらしい」



だが、最後に告げられた。


“地に這いつくばって生きるがいい。人を愛したいならば夜のみ人にしてやる。

恨むならば…葵を恨め”。


――そして楽園から追放された神の鳥たち。


「葵…か」


「だから親父は碧い鳥を恨みまくった。結局は神の言うことを鵜呑みにし、愛されることはなくとも信じてしまったのさ」



淡々と、他人事のように神の鳥である父の黒い鳥、そして神を語る凪。


「捜して見つかったとしてもお前は碧い鳥の末裔。有無を言わさず殺されるかもしれねえぞ?」


凪は肩肘をついて颯太の表情を観察するが、斬りつけた時のように痛んだ顔をしたのは楓の方だった。


「俺は殺されても、その手で造った鳥たちを殺めることは断じてできんはずだ。そう信じている」


「だから自分は死んでもいいってか?颯太よ、お前はどれだけ自分の価値を知らないんだ?天花だけでなく、俺の心を魂をも地獄から救い出したというのに」


――凪は隻眼の右目で颯太をじっと見つめた。
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