アカイトリ
「…神の鳥だけにしか到達できん神域が天にあるらしい」


しばし言葉を失ったかのように黙っていた凪が口を開いた。


「天花ならば、そこへ行けるか?」


「墜とされた後、親父たちも楽園を目指したそうだが到達できんかったらしい。結界のようなものがあったと言っていた」


颯太は形の良い顎に手をやり、考え込んだ。


「そうか…我々だけで引きずり出すことは不可能というわけだな」


凪はむくりと身体を起こし、再びべったり颯太に密着した。


「…変な夢を見なかったか?」


眠れぬ夜を過ごしたあの日のこと。

同じ境遇で生まれた者として、共有したい出来事。


――颯太は弾かれたように顔を上げた。


「凪…お前もか?」


「ああ。何かに呼ばれたような…何かが目覚めたような…」


またも口を閉じた凪の漆黒の髪を、颯太が限りなく優しく撫でた。


「俺も天花も同じような夢を見た。意味はわからなかったが…俺たち神の鳥が同じ夢を見たことには何か意味があるはずだ」


――凪はその手を掴んだ。


「俺も手伝ってやる」


「…いいのか?」


嬉しそうに自分に微笑んだ颯太の笑顔を見て、凪もまた嬉しい気持ちになって強く頷いた。


「俺も呪詛から…呪縛から解き放たれたい。ついでに神からお前が短命で終わらない方法を聞き出してやるさ」


本当は、こっちが俺の目的なんだけどな。


――それは心の内にしまい、凪は狂犬…もとい楓を見遣りながらからかった。


「お前も颯太に早死にしてほしくないだろうからな」


「…」


楓はそれには沈黙で返した。


颯太がふいに思い出したように聞いてきた。


「凪、住み処はどこだ?」


「俺か?天花を掠ったあの洞窟だ」


しばし見つめられた後、颯太は凪の肩にぽんと手を置いた。


「あんなとこは住む場所じゃないぞ。よければここに住まないか?」


「…は?な、何を言い出すんだお前…」


「部屋は余っている。天花も喜ぶだろうし、そうしてくれ」


この鈍感め。

颯太を独り占めしたいあいつが喜ぶはずがないだろうが。


――だが凪は頷いた。


颯太の傍に居るために。

颯太をあらゆるものから、守るために。
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