アカイトリ

凪の香りがしたので、天花は部屋から出て颯太の部屋を訪れた。


「よう、天花。相変わらず美しいな」


馴れ馴れしく、そして軽々しく声をかけてきた凪を見て、天花は眉を潜めた。


…明らかに、今までとは纏っていた空気が違う。


「…何しに来た？」


天花は凪と距離を取りながら颯太の隣に回り込んで座ると、楓が小さく頭を下げて退室する。


「お前…何かが違うな」


「は？どういう意味だよ」


うまく表現できずに天花が颯太へ視線を遣ると、颯太はにこりと笑いかけた。


天花は俯いて赤くなった顔を隠す。


だがしっかり凪には見られていたようで、歩幅前進しつつ近付いてきて声を潜めた。


「抱かれたのか？」


ぎっと凪を強く睨んだ天花の反応を見て心底面白そうに高笑いをした。


「色違いはやはり無理か。？そんな調子じゃ俺が颯太をたぶらかす方が先かもしれんなあ」


「なっ、何を言う！」


再び先程と同じような光景になり、颯太は子供のような笑い声を上げた。


「まあ、仲良くするんだぞ。共に生きるんだ、いがみ合う関係は好ましくないからな」


その言葉に含まれる、別れの匂い。

凪と天花は口をつぐむ。


「ああそうだ。天花、凪をここへ住まうことにさせた。互いに出会えなかった間の出来事を話し合うといい」


「お前はほんっとに鈍感だな」


ぼそっと凪は呟き、身体を起こした。


「颯太、今日は碧の霊廟へ案内してくれるんじゃなかったか？」


「ああ、そうだったな。すぐに発てるか？」


会話に置いて行かれた感の天花が立ち上がろうとする颯太の袖を引っ張った。


「どうした、天花？」


「わたしも…わたしも連れて行け」


凪と颯太は顔を見合わせた。

誰よりも碧の末路を知りだかっている天花の手を取りながら立たせると、藍色の瞳をやわらげ、頷いた。


「わかった。一緒に連れて行ってやる。俺の親父殿の話も聞くといい。神の鳥を捜すために世界を放浪していたからな」


「俺は馬を引いてくる」


さっさと部屋を出て行った凪を見送ると、待ち構えていたように天花が抱きついてきた。


「すまない…わたしは我が儘を言ったか？」


「いや？元々連れて行くつもりだった。本邸は広いぞ、迷うなよ」


障子を開けて颯太は天花に手を伸ばした。


「着替えを手伝ってやる」