アカイトリ
天花は一旦自室へ戻り、しばらくすると颯太が手に服を持って現れた。


「これを着ろ。動きやすいはずだ」


そう言って、鏡台の前に立つ天花の浴衣に手をかけた。


「じ、自分でできる」


「まあそう言うな。着方を教えてやる」


さらりと浴衣が床に落ち、鏡の前にただ立ち尽くす。


胸を両腕で隠すと、鏡越しに颯太が白いうなじを見つめていることに気付く。


外は明るい。


「あまり…見ないでくれ」


「何故だ?こんな綺麗なもの…俺は見たことがない」


背中に口づけをされて、がくんと力が抜ける身体を颯太が受け止め、唇が重なる。


「こんなことをしている暇はないんだけどな…。天花、見ろ。自分が映っている鏡を」


――潤んだ瞳で鏡を見ると、颯太に支えられながらかろうじて立っている自分の姿――恍惚に酔いしれている顔が見てとれた。


「…は、恥ずかしい…」


颯太に翻弄され、耳に息を吹きかけられた。


「も、もうやめてくれ…っ」


「天花、可愛い。早く、身体もひとつになりたい」


それこそが、二人の最大の願い――…


どうしようもなく愛しい。

早く呪詛から解放され、颯太の命を繋ぎ留める方法――それが叶ったならば、どうにでもしてほしいと思った。


「…止まらなくなりそうだから、この辺でやめておく」


持ってきた服を、まだ息の荒い天花に着せた。



上下共に身体の線がくっきりとわかる藍色の『たんくとっぷ』と黒の『ぱんつ』。
腰のくびれや細い脚をいやというほどに強調する。


そして最後に纏った赤色の丈が長く、臍あたりで釦で留められた薄い『こーと』。

全て遥か昔に滅んだ文明の時の服だ。


「思った通りだ。よく似合う」


そしてまた抱き合う。


「碧の霊廟へ、共に行こう」


――颯太が囁いた。

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