アカイトリ
遺骨…


まるで始祖の骨を守るかのようにその翼で骨壷を包み込み、そして死してもなお、輝きの消えることがない、光沢のある碧い身体。


「神に造られたその身体は、通常の生き物とは違う作りになっている。老いることもなく、朽ちることもなく…」


「これが…“はじまりの碧い鳥”…」


神からただひとり愛され、神からただひとり名を与えられ、そして神からただひとり猛烈に呪われ、他の神の鳥たちからも呪われた…


「この碧い鳥は死ぬ間際に自らこの棺に入り、死んだという。共に同じ場所へ旅立つために、永遠よりも死を選んだのだ」


――天花は棺の前でひざまずき、恐る恐るその身体に触れた。


途端、真っ白な閃光に襲われ、天花は瞳を庇った。


「天花!」


颯太が慌てて碧い鳥の身体に触れた天花の手に触れた時。


脳裏に鮮やかな映像が流れ込んできた。


――そこは花々に溢れた見たこともない美しい場所。

その花を手折り、香りを楽しむ碧い鳥…葵の頬を撫で、唇を重ね合う二人。


一人は葵に間違いない。

だがもう一人は…

金の長い髪を束ね、線が細く、全てを知り尽くしているかのように全知に富んだ藍色の瞳。

想像を絶するその美貌…


葵がその名を呼んだ。


『皇(こう)…』


『愛しているよ、葵』


『はい、わたしもあなたを愛しています…』


なのに。


なのに――ある日世界が一変した。


天球に降りた葵に移り変わり、そこで動物用の罠にかかった葵が、出会った。


我々の始祖に。


『あなたが…あなたが、わたしのつがいとなる人なのね…』


神の鳥ではなく、つがいの相手は人間だった――


その事実を曲げることはできず、また葵は始祖…須王(すおう)に向けて泣きながら頼んだ。


『わたしを…わたしを傍に置いてください。愛されなくていい、ただ傍に置いてください』


喋る鳥を前に立ち尽くす須王。

しかし罠を外し連れ帰り、人に変わった葵を深く愛した。


それが――皇の逆鱗に触れた。


『許さない…許さないぞ…!私を裏切ったこと、私の愛を捨てたことを…!』


そして大洪水は起こる。
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