アカイトリ
天花は“それ”を見て目を見張った。


…上半身浴衣をはだけた颯太の、心臓の少し下の位置に…鳥の足型が刻印されていたのだ。


藍色の三つ指の鉤爪…


「何だ、これは…」



ふらりと颯太に近寄り、その鉤爪の刻印に触れる。



――颯太は、肌に吸い付くような天花の手に思わず身体が熱くなる。



「後ろにもあるぞ」



呆けている天花にくるりと背を向けると、肩甲骨の下あたり…心臓付近にある刻印と全く同じ位置に全く同じ刻印があった。



「代々、直系のみに顕れる痣のようなものだ。今は俺と、親父殿しか居ないがな」



今度はまた、背中の刻印に頓着なく天花が触れてきて、指でなぞった。


「…誘っているのか?」


完全に、それに目を奪われている天花は返事もしない。


この後の事態を悟り、楓が小さいきぬ擦れ音と共に部屋を出て行った。


「これは…」


つがいの証。


結ばれた時の、魂の刻印――


――生まれた時から独りぼっちだった天花には存ぜぬことだったが、本能が、そうであると叫んでいる。


「子孫にも顕れるのか…」


「らしいな。碧との契りの証だ」


なおも、さわさわと刻印に触れる天花の手はあまりにも艶めかしく、颯太はその手を取ると天花を抱き上げた。


…驚く程に、軽い。


慌てて首にすがってきた天花に、無性に理性を飛ばされる。


「何を…」


「抱かせてくれ」


天花が、聞いたことのない言葉を聞いたかのような奇妙な表情を朱い瞳に浮かばせる。


「抱かせる…?」


「大体お前が悪いんだぞ。あんなに触られたら抑えらるものか」


事前に隣の部屋に敷いてあった布団へ天花を押し倒すと、颯太は浴衣の上から天花の豊かな胸へと触れた。


しかし、天花が真っ向から見つめ返してくる。


「何の冗談だ」


「今から肌を合わせるんだ」


しばし見つめ合う。



「わたしはお前とは、つがいにはならない」



そう告げた天花に、颯太は小さく笑んだ。
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