アカイトリ
「天花さん、これを」
菖蒲が懐から小さな小袋をようやく泣き止んだ天花に差し出した。
「わたくしもちょうど月のものの最中でしたの。さあ、これを」
天花は気恥ずかしそうに小さく頷いてそれを受け取ると、障子を開けた。
開けるとその場で颯太が腕組みをして待っており、目が合うと、脱兎の如く走り去って行った天花の姿を視界から消えるまで見送って部屋に入った。
「先程の癇癪は何だったんだ?」
「ふふ、颯太様、こちらにいらして」
誘われるがままに近くへ腰掛けると、菖蒲は耳元でぼそぼそと囁いた。
言葉が増える度に、颯太の顔色も赤身を増してゆく。
「そ、そうか…」
「おめでたいことですわ。お赤飯なんていかがかしら?」
颯太は参ったように髪をかきあげる。
「月の…か…」
「完全に女性になった証。颯太様、気兼ねなさらずに早くお抱きになったら?」
助言してくるかつての情事の相手に颯太は苦笑した。
「そういうわけにもいかなくてな。参ってるんだ」
「まあ…わたくし天花さんをけしかけてしまったわ」
「?何をだ?」
「ふふ、お気になさらず」
それ以上語ろうとしない菖蒲の固い口をどうにかして割ってやろうと尽力した颯太だったが、直に医者が到着して菖蒲は診察を受けた。
「疲れが身体に現れたのでしょう。二、三日養生すれば回復しますよ」
「まあ、困りますわ。わたくし…」
颯太は菖蒲の身体を優しく押して布団に横たえさせた。
「しばらく泊まっていけ。きっと天花も喜ぶ」
「申し訳ありません…」
――菖蒲を眠らせるため颯太は医者と一緒に部屋を出て見送ると、天花の部屋の障子がわずかに開いていたのでそちらへ向かう。
「天花…入っていいか?」
返事はないが、のぞき見してみるとこちらに背を向けて座って押し黙っていた。
「入るぞ」
桃色の浴衣に着替え、長い髪をくくっている。
こういう時に、何と声をかければいいかわからず颯太はただ黙って立っていた。
「…月のものが来た」
消え入るような声で天花が呟いた。
菖蒲が懐から小さな小袋をようやく泣き止んだ天花に差し出した。
「わたくしもちょうど月のものの最中でしたの。さあ、これを」
天花は気恥ずかしそうに小さく頷いてそれを受け取ると、障子を開けた。
開けるとその場で颯太が腕組みをして待っており、目が合うと、脱兎の如く走り去って行った天花の姿を視界から消えるまで見送って部屋に入った。
「先程の癇癪は何だったんだ?」
「ふふ、颯太様、こちらにいらして」
誘われるがままに近くへ腰掛けると、菖蒲は耳元でぼそぼそと囁いた。
言葉が増える度に、颯太の顔色も赤身を増してゆく。
「そ、そうか…」
「おめでたいことですわ。お赤飯なんていかがかしら?」
颯太は参ったように髪をかきあげる。
「月の…か…」
「完全に女性になった証。颯太様、気兼ねなさらずに早くお抱きになったら?」
助言してくるかつての情事の相手に颯太は苦笑した。
「そういうわけにもいかなくてな。参ってるんだ」
「まあ…わたくし天花さんをけしかけてしまったわ」
「?何をだ?」
「ふふ、お気になさらず」
それ以上語ろうとしない菖蒲の固い口をどうにかして割ってやろうと尽力した颯太だったが、直に医者が到着して菖蒲は診察を受けた。
「疲れが身体に現れたのでしょう。二、三日養生すれば回復しますよ」
「まあ、困りますわ。わたくし…」
颯太は菖蒲の身体を優しく押して布団に横たえさせた。
「しばらく泊まっていけ。きっと天花も喜ぶ」
「申し訳ありません…」
――菖蒲を眠らせるため颯太は医者と一緒に部屋を出て見送ると、天花の部屋の障子がわずかに開いていたのでそちらへ向かう。
「天花…入っていいか?」
返事はないが、のぞき見してみるとこちらに背を向けて座って押し黙っていた。
「入るぞ」
桃色の浴衣に着替え、長い髪をくくっている。
こういう時に、何と声をかければいいかわからず颯太はただ黙って立っていた。
「…月のものが来た」
消え入るような声で天花が呟いた。