アカイトリ
それ以上言葉が続かない天花は顔を両手で隠したままにずっと俯いていた。


「菖蒲が赤飯を炊けと言っていたぞ」


天花と背中合わせに座った。

部屋に交わる朱と碧の香り。


「…どういう意味だ?」


「人はな、めでたいことがあると赤飯を炊くのが習わしなんだ」


しばらく黙っていた天花だったが背中に体重を預けてくると、颯太は小さく笑った。


「わたしは今まで成鳥だと思っていたけれど…まだ雛鳥だったんだな」


「そんなに色っぽい雛鳥は存在してたまるか。天花、お前が俺を受け入れる準備を身体が着々と進めているんだ」


――天花は顔を真っ赤にして膝を抱えて丸くなった。


「受け、入れる…」


「変なところで言葉を区切るんじゃないぞ」


小さく笑うと、勢いよく天花が顔を上げた。


「菖蒲は…どうした?」


「ああ。二、三日滞在してもらうことにした。それがどうした?」


「…あの人は母のようにあたたかい。母を知らないが、きっと菖蒲のように温かいに違いない…」


――颯太はそれを聞いて天花の艶やかな髪を梳くって香りを楽しんだ。


「菖蒲が滞在している間に茶の作法や着物の着方などを教わるといい。あれは家元だからな」


「違うことも教わったぞ」


聞き返す間もなく、天花が颯太の鎖骨の下あたりを舐めた。


「!て…天花…?」


そこは颯太の最も感じる場所。


その部分を集中して攻めてくる天花の肩を押して遠ざけようとするが、いかんせん力が入らない。


「菖蒲の、仕業だな…」


「ああ。これからも沢山お前のことを教わるつもりだ」


惚れている女に攻められて颯太は耐えきれずに天花の唇を強引に奪った。


「こら。月のものが来たというのに乱暴なことはできない。それが終わるまで待たなければならないのに」


囁いた低い声だけで天花は感じたような艶やかな表情を見せた。


「それに菖蒲に教わるのではなく、自分で見つけたらどうだ?」


――二人は手を強く握り、笑い合いながら抱き合った。


「これが終わるまで待つだなんて、苦労するな」


「全くだ」


颯太は苦笑し、また唇を求めた。
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