アカイトリ
「待たせたな」


夜半、楓に伴われて凪がやって来た。


「材料を集めるのに手間取った。すまん」


隻眼の右目が何故だかとてもおかしそうに緩んでいた。


「すげーなおい。何だよここは?で、お前らはどうなってんの?」


天花は発作のような波と戦っている。

その度に颯太が鎮め、ただそれの繰り返しだった。


「どうやって発情を止めるんだ?」


「いや、それ自体を止めることはできねえよ。だが、これを身につけていれば発情を抑えることはできる」


凪が差し出したのは、糸屑のような白い糸だった。


「颯太、これをお前の血に浸せ。そして指に巻き付けろ。血の盟約により、これはお前にしか外せなくなる。発情が終わるまで絶対に外すんじゃねえぞ」


足早に階段へ向かう凪を呼び止めた。


「凪、礼を言う。明けた暁には酒でも飲み交わそう」


「楽しみにしてるぜ」


凪がにやけながら立ち去った後、颯太は指先を噛み切った。


ぱたぱたと血が滴り、白い糸が朱色に染まった。


「天花、手を」


ぶるぶると震える手が差し出され、颯太はそれを天花の細い小指に巻き付けた。


途端--瞳に理性の光が戻ってくる。


「…?わたしは…?」


「戻ってきたか、よかった」


笑いかけた颯太と、颯太の血で染まった小指の糸を見比べる。


「何だ、これは?」


「まあ気にするな。それよりも天花…これは粋なことをしたな、凪め」


余った糸を天花に差し出す。


「俺の指にも巻いてくれないか?」


意味もわからず言われた通りに小指に巻き付けると、それを見つめた。


「遥か昔、この国で流行った呪いだ」


「…これが?」


二人で天井に小指を翳した。


「運命の相手は赤い糸で結ばれているそうだ。生涯離れることはない。凪め、わかっていて糸にしたのか?」


くすくすと笑う颯太の小指に絡まった糸を、天花が両手で包み込むようにして握った。


「絶対にこれを外さないでいてくれ。わたしのも、絶対に外さないでほしい…」


重なった唇は先程とは全く違う愛しさに溢れている。


「外すものか。俺たちの魂はひとつだ」


何を犠牲にしても、離れない。
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