アカイトリ
天花を抱き上げたまま階段を上がり、回廊を通り抜け、外に出た。
満月が静かな光を降らす。
「自身と戦って疲れただろう、もう寝るといい」
ゆっくりと下ろすと天花は地に足をつけ、小指の赤い糸を見つめていたが顔を上げた。
「…独りで寝たくない」
「やめてくれ、お前の誘惑に逆らうのに骨が折れたんだ。ゆっくり眠るといい」
しばらく悲しげに颯太を見上げていたが、蘭が近付いてくるのを見つけると、天花はふいっと踵を返した。
…苦手なのだ。
この女のことが。
「颯太様、凪がお部屋でお待ちかねですよ」
お盆に乗せた酒を差し出しながら部屋に戻り、障子を閉めた天花を見遣る。
小指には赤い糸。
「…あれは何ですか?」
ふと視線を下げればそれは颯太の指にも絡まっていた。
颯太は蘭からお盆を受け取ると、笑いかけながら頭を撫でてきた。
「あれか?あれはまあ呪いみたいなものだ」
「へえ?颯太様もしてますけど…何の呪いですか?」
興味本位――颯太と話したくて聞いたことなのに、蘭はそれを後悔することになる。
「これは互いに指に巻いて永遠を誓った運命の相手というわけだ。お前にも早く見つかるといいな」
――胸がぎゅうっと締め付けられて、ただ蘭は俯いた。
「…そうですね…」
「これ、ありがとう。もう遅いから早く休め」
立ち去る颯太の姿が消えるまで蘭はただ立ち尽くした。
「…少しはあたしの気持ちにも気付いてよ…」
どれだけ待てばいいの?
待っている間に、あなたは死んじゃうんじゃないの?
あの朱い鳥は、あなたの運命の相手なんかじゃない。
「あたしはずっと傍に居るのに…」
――部屋からは笑い声が聞こえた。
幼い頃はよかった。
颯太と楓と三人でいつも一緒に遊んで、笑い合っていたというのに。
「何で…何で諦められないんだろ…」
とぼとぼと自分の部屋に向かっていると、楓とばったり会った。
蘭は楓の袖を強く掴み、困惑気味の楓に怒鳴った。
「お酒、一緒に付き合って!」
満月が静かな光を降らす。
「自身と戦って疲れただろう、もう寝るといい」
ゆっくりと下ろすと天花は地に足をつけ、小指の赤い糸を見つめていたが顔を上げた。
「…独りで寝たくない」
「やめてくれ、お前の誘惑に逆らうのに骨が折れたんだ。ゆっくり眠るといい」
しばらく悲しげに颯太を見上げていたが、蘭が近付いてくるのを見つけると、天花はふいっと踵を返した。
…苦手なのだ。
この女のことが。
「颯太様、凪がお部屋でお待ちかねですよ」
お盆に乗せた酒を差し出しながら部屋に戻り、障子を閉めた天花を見遣る。
小指には赤い糸。
「…あれは何ですか?」
ふと視線を下げればそれは颯太の指にも絡まっていた。
颯太は蘭からお盆を受け取ると、笑いかけながら頭を撫でてきた。
「あれか?あれはまあ呪いみたいなものだ」
「へえ?颯太様もしてますけど…何の呪いですか?」
興味本位――颯太と話したくて聞いたことなのに、蘭はそれを後悔することになる。
「これは互いに指に巻いて永遠を誓った運命の相手というわけだ。お前にも早く見つかるといいな」
――胸がぎゅうっと締め付けられて、ただ蘭は俯いた。
「…そうですね…」
「これ、ありがとう。もう遅いから早く休め」
立ち去る颯太の姿が消えるまで蘭はただ立ち尽くした。
「…少しはあたしの気持ちにも気付いてよ…」
どれだけ待てばいいの?
待っている間に、あなたは死んじゃうんじゃないの?
あの朱い鳥は、あなたの運命の相手なんかじゃない。
「あたしはずっと傍に居るのに…」
――部屋からは笑い声が聞こえた。
幼い頃はよかった。
颯太と楓と三人でいつも一緒に遊んで、笑い合っていたというのに。
「何で…何で諦められないんだろ…」
とぼとぼと自分の部屋に向かっていると、楓とばったり会った。
蘭は楓の袖を強く掴み、困惑気味の楓に怒鳴った。
「お酒、一緒に付き合って!」