アカイトリ
目が“そこ”から離せなかった。

そこは、まるで、地獄の業火に焼かれたかのような醜い痣が広がっていた。


思わず口許を覆った颯太の顔をただじっと伊織は見つめた。


「僕の祖先は有名な鍛冶屋だったんです。平凡で、慎ましく生活していたんです。でもね、ある日神が目の前に現れ、僕の祖先の腹に触れてこう言ったんですよ。『私の大切なものを奪った碧い鳥の一族を殺せ。さもなくば、この痣は代を追うごとに広がり、やがて腐り落ちるだろう』と」


――…何ということだ…


唯一、『人』として神に呪われた人間がここに居る――


颯太の始祖・須王も人だったが、碧い鳥の葵と契ったことにより、碧い鳥の眷属という形になっている。

正確には、“人ではなくなった”。


「だが…お前は人間だ…」


「はい。僕は人間なんです。神の剣を作る製法は代々一子相伝。しかも生まれた直後から魂に刻まれるんですよ。これと一緒にね」


――痣を指差しながら伊織は指先で眼鏡を上げた。


「あなたが生まれるのをずっと待っていました。ずっとずっと…」


「…?俺が…何だというんだ?」


美しい美貌に影を落とす颯太に対し、やはり伊織は笑顔を崩さない。


「金の髪、藍色の目の男子が生まれし時、終焉を迎えるだろう」


…さらに影を落とした颯太を見て、逆に伊織があれ?と声を上げた。


「今の…知りません?あれ?知っていると思ったのに…」


「いや…そんな伝承は残っては…」


「俺は知ってるぜ」



右前方の屋根上に凪の姿があった。

伊織はまた笑顔を向けた。


「あれえ?黒の…ですよね?はじめまして、僕は」


「お前は黙ってろ」


一喝すると、ひらりと颯太の隣に舞い降りた。


「颯太…当主のお前の親父なら知ってるはずなんだ」


「…そうなのか?だが親父殿は何も…。何故お前が知っている?」


少し言いにくそうに凪は口を固く閉じたが、颯太の鍛えた肩にそっと手を置いた。


「あれはかつて俺の親父が碧い鳥から聞いた言葉だ」


伊織が頷いた。


「あなたが生まれる時、終焉は訪れる。さあ…命のやりとりをしましょう」


不気味な沈黙が降りた。
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