アカイトリ
喜びの与え方を知らない朱い鳥。


あまりに滑稽すぎる。


本分を忘れてしまった朱い鳥。


果たして、わたしに生きている価値はあるのだろうか――?


――瞳を閉じ、黙りこくってしまった天花…朱い鳥を、颯太はいつまでも撫で続ける。


「天花…夜になったら、聞いて欲しい話があるんだ。…いや、今でもいいんだが…今は話せないだろうからな」


…人語を介すことなど、実は簡単だ。


けれど話す必要がないので、それは黙っていることにする。


使用人たちが各々の部屋から出てきて、それぞれに与えられた役割分担をこなし始める。


「ああ眠たい。お前のおかげで俺は一睡もできなかった。どうしてくれるんだ?」


ため息まじりに呟いた颯太を、天花がぎらりとにらむ。


そんなの、知ったことではない。


むしろ、お前にあちこち散々触られて、わたしがどれだけ不快な思いをしたことか…。


…いや、実際は獣としての本性が出る寸前だったのだが…


あれも、喜びというのだろうか?


――初夏が訪れ、庭先の木には蝉が命を削りながら鳴いている。


「お前は本当に美しい。碧もさぞかし美しかったろう。天花、お前は一体どれほどを生きて、どれほど同朋を捜し求めて飛び続けたのだろうか?」


決まっている。


この呪いが解けることはないだろう。


だとすれば、同朋を求め、わたしはさ迷い続けるしかないのだ。


人間よ・

お前が想像もできないほどの年月を、ずっと――。


…飽きもせず、朱い天花の身体を撫で続けていた颯太が、使用人部屋から出てきた蘭に声をかける。


「蘭、天花に水浴びでもさせてやってくれ」


「かしこまりました。颯太様は早く朝餉を食べてくださいね」


ああ、と相槌を打ち、颯太は天花を離すと、自室へと引き上げる。


「天花、無駄なことはよせよ。その鎖は絶対に外れないからな」


…碧の話を聞いたら、こんな所からはおさらばしてやる。


蘭が盥を持ってこちらへ歩み取ってくる様子を天花はじっと見つめていた。
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