アカイトリ
「誰にも見つからないように運べ」


楓の腕の中で力無く脱力している女は、ぴくりともしない。


「颯太様。これは人ではありません。このようなことが隼人(ハヤト)様に知られますと…」


「確かに面倒なことになるな。楓、別館に運べ。あそこなら誰も近寄らない」


父は街の領主で、颯太は一人息子の放蕩息子。


楓は小さな頃から颯太に仕えている従者だ。



別館と言えど、広さは余裕で迷える程に大きい。

この朱い鳥の存在など、誰も気付かないだろう。


――屋敷の中でもとりわけ目立たない部屋に運び込ませる。

召し使いで同い年…二十四歳になる蘭(ラン)が、楓が抱えてきた全裸の女を見て小さく悲鳴を上げる。


「颯太様!なんですかその女性は!!」


「ああ蘭、そこの道に落ちていたから拾ってきたんだ」


楓が部屋へ運び込むのを見守ってから、颯太は頭3つ分程背の低い蘭に耳打ちする。


「あれは、朱い鳥だ。絶世の美女だろう?」


蘭は耳元で囁く屋敷の主でもあり、幼い頃から共に育った颯太にどぎまぎしながら、楓と女が消えた部屋を睨んだ。



「朱い鳥って…天から追放されたっていう、あの伝説の鳥ですか?確かに朱い…」



颯太は少し伸びた後ろ髪を革紐で縛ると蘭に笑いかけた。



「蘭、誰にも屋敷に近づけるな。朱い鳥は黄金に匹敵する代物だ。お前が他の使用人によく言い含めておけ」



歌でも歌い出しそうな上機嫌ぷりに蘭はため息をついた。


あんな厄介者を持ち込んでどうするつもりなんだろう。



ああそうだ。

この館で働く者全員に箝口令を敷かねば。
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