アカイトリ
颯太は天花が泣き止むまで背中を、頭を撫で続けた。


…落ち着く…。



天花は不思議な充足感と安心感に包まれ、安堵の息を漏らす。


「落ち着いたか」


「…ああ」



膝から下ろすと、少しだけ不服そうな表情を浮かべた天花に自然と笑みが浮かぶ。


「天花、字は読めるか?」


「…読めない」


「碧は始祖から字を教わったらしいが…お前はどうだ?」


天花はしばらく考える。



…わたしが今後も、碧い鳥のように長く人間と関わる日が来るのだろうか?



この男…颯太の天命が尽きれば、わたしは再び飛び立つに違いない――


だが知識はあって損はない。


「教えてくれ」


「そうか、わかった」


無邪気に子供のように笑う颯太。

天花は颯太の放つ香りが好きだった。


傍に居たい。


触りたい。


だが、触れ合ってしまうと、底無し沼のように求め合ってしまう…


そういう確信が、ある。


身体の芯が燃え上がるような、かつて感じたことのない激情――



「俺が読んでやる」



そう言って、颯太は父から預かった書物を取ろうとして立ち上がろうとした。


くん、と何かに引っ張られてそちらを見ると、天花が颯太の袖を引っ張っている。


「なんだ、どうした?」


「あ、いや…何でもない」


戸惑いも露わにおずおずと手を離せないでいる天花は、また違う表情を颯太に見せている。


「…どうした。やけに奥ゆかしいな」


含み笑いをすると、天花はかっとなって乱暴に手を離す。


「な、何でもない!」


ぷいっと顔を逸らした天花に、颯太はどうにも抑えられない沸き上がる愛情を感じつつ、再び天花を膝の上に抱く。


天花が、ふわりと花が咲くような笑顔を浮かべた。


「いつでも膝くらい貸してやるぞ」


反論は、ない。


颯太は改めて、碧の遺言が記された書物を手に取った。
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