アカイトリ
「あの、ご主人様?あれって…風見鶏じゃないですよね?」


つい最近住み込みで雇った庭師が、植え込みを刈りながら屋根の上を見上げる。


「ん?ああ、限りなく風見鶏に近い鳥だ」


父が居ない間、この地の管理を任されていた颯太は、ずっと天花に張り付いているわけではない。


庭を横切って近道していた時に話し掛けられたのだ。

この二重になったばかりの庭師・芹生(セリオ)には、まだ事情を知らせていない。


見たこともない美しい鳥が時々わずかに動いて颯太を見たり、街の風景を眺めたりしている。


「珍鳥でな。人に慣れないんだ。突かれないよう近付くんじゃないぞ」


「へえー…尾羽なんかすげー長いし、真っ赤な鳥なんか見たことないっすよー」


手元が留守になり、みるみる不格好になっていく植え込みを見て、颯太が吹いた。


「おい芹生、親父殿がそれを見たらすぐ解雇だぞ、今すぐ高さを整えろ」


腹を抱えて笑う無邪気で美貌の持ち主である颯太の屋敷に仕えることができて、友人たちからはたいそう羨ましがられた。


また色街通いで有名なこの主人が、最近ぱたりと通わなくなったのも、街の噂のひとつだ。


「はあー、颯太様はあの鳥にご執心だから色街に行かなくなったのかあ」


思わず漏らした失礼な本音にも颯太は動じることなく、むしろ深く頷く。


「ああ。あの鳥に今は夢中でな、街には出てないんだ。俺は部屋に戻るから、何かあれば楓に言え」


じゃ、と軽く手を振って背を翻した金の髪の青年は、男の自分でもぞくぞくしてしまう。


そして何やら、良い香りがする。


「あの鳥、高かったんだろうなぁー」


再び手元が留守になりそうになり、芹生は慌てて仕事に集中した。


草の良い匂いが充満する。

この屋敷の庭園はとても美しく、また情緒溢れる緑がどこまでも広がっている。


芹生はもう一度屋根の上を見上げた。


朱い鳥が羽に顔を突っ込んで首を畳み、どうやら寝ているようだ。


「ご主人様の可愛がってる鳥のためなら、えんやこらだい」


何しろ賃金も格段に良いし、主人は見栄えがする。


芹生は植え込みの刈りに未だかつてなく集中して取り組んだ。
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