アカイトリ
広すぎる庭園を、一日で処理するのは困難だと悟り、陽が傾き始めた時に芹生は庭石に座ってぼんやりしていた。


何の気無しに屋根の上を見上げると、あの朱い鳥が動いて、全く重力を感じさせない動作で地面に着地する。


「そういえば触ると突くって言われたなあ…」


あの鋭い嘴には突かれたくないので、歩き出した鳥を眺めることに徹した。


「…あれ?部屋に入るのか?でもあの部屋は…」


住み込みで雇ってもらえることが決まった日、


この屋敷を取り仕切る蘭という女と、主人である颯太の身を警護する楓という男から重々言われている。


「離れのあの部屋には近づくな。主人以外は入ってはいけない」と。


だがいつも少しだけ障子が開いている。

それも気にはなっていたのだが、芹生は身体を捩込んで入ってしまった鳥を追い出すために、離れに近づいた。


すると部屋が一瞬光に包まれた。


「…!?」


訳が分からずその不思議な現象に驚いていると…人の気配がした。



「誰か居たっけか?」



すらり。



障子が開いた。



人が、出て来た。



芹生は我が目を疑った。



真白き肌に、腰まで届く朱い髪。


少し半開きの唇は真っ赤だ。


(どっひぇーっ!!なんだこの美女は!!!)


部屋の前で呆然とその美女を瞬きもできずに凝視していると…


池を挟んで向かいの建物から、颯太が出て来た。



「ああ、天花。もうそんな時間か」



書き物でもしていたのか、首をこきこきと鳴らす。


天花、と呼ばれた美女が、ほんの一瞬だけ芹生に視線をくれると、縁側を降りて颯太の元へと歩き出した。


ふわり、ふわり。


先程の鳥と同じように、重力はそこに存在していない。


「ごっご主人様っ!この部屋に鳥が…」


「ん?ああ、あれはいいんだ。巣みたいなものだから、入るなよ」


とうとう渡り切った天花に差し出した手へ、手が重なる。


(なんてお似合いな二人なんだ!!!!)


芹生は息を荒くした。
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