アカイトリ
甘噛みされた左肩が、どくどくと脈打つ。


その噛み痕を、颯太の指が撫でた。


「や、めろと言っている…!」


どんと颯太の肩を押し、ずるずると離れる。


颯太は、肩あたりまではだけた天花の身体から香り立つ甘い香りに、頭の芯からくらくらした。



同様に、また天花もそれを感じて、本能的に離れたのだ。


…色違いの鳥の禁忌。


それはまた、神にも認められず、また子も出来ない、何も生み出さないつがい。



「…わたしは朱い鳥。お前は、碧の末裔。つがいとなることは叶わない」



――自分で放った言葉がなぜか痛い。

そして、颯太を見ることができない。


そっと、視界の端で颯太の様子を窺う。

颯太は…かすかに自嘲するように微笑んでいた。

ずきっと胸が痛んだ気がして、心臓を押さえる。


「天花…これを見ろ」


床に置いていた短剣を手にし、左手の掌を颯太はおもむろに切った。


真っ赤な血が滴り落ち、ぽとぽとと床へ散らばる。


「碧の末裔でも血は限りなく薄い。本来ならば傷口など一瞬にして塞がるはずだろう?」


…だが血が止まる気配がない。



「俺の代で我が家系は使命を終える。数千年、同族に碧の遺した遺言を伝えるためだけに、存続し続けた」



すう、と音もなく颯太の頬から涙が伝った。



――ああ、何ということか。


この人間は、わたしに会えたことが最大の喜びだったのか…?


…目頭を抑えて肩を震わせる颯太に、どうしようもなく感じたことのない、


あたたかく、限りなく深い思いが込み上げる。


天花はそっと動き、颯太をそっと抱きしめて肩に颯太の顔を埋めさせた。



「長い間、出会えずにすまなかった…。わたしは落ちこぼれの鳥だから…」



言葉もなくふるふると首を小さく振ってぎゅう、と天花を強く抱きしめてくる颯太の左手を取って、天花は傷口を舐め取った。


颯太が小さく呟いた。



「ありがとう――…」



ああ



このまま



朝が来なければいいのに…


――天花は生まれて数千年、はじめて強くそう願った。
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