アカイトリ
朝だ。
もう、わたしは本来の姿に戻ってしまう。
いやだ。
このままでいたい――
はじめて願った。
人の姿のままでも構わない、と。
二人、抱き合ったまま静かで穏やかな時が流れる。
命を削って鳴く蝉も。
朝の到来を告げる眷属の小さな鳥たちも。
動を司る存在が一切、存在しないような空気。
天花は動かなかった。
颯太も、動かなかった。
――どれだけ時が流れただろうか、
天花が颯太が自分で傷つけた手を取ると、またちろりと傷痕を舐める。
わたしたちの唾液は、傷を癒すことができる。
わたしたちの血は、触れるとその生物の命を奪ってしまう。
…颯太の傷痕が、わずかな線を残して塞がった。
「…痛むか?」
そっと聞いた天花に、僅かに身体を起こして颯太が首を振った。
伏せた長い金の睫毛が、瞳が美しい。
愛してしまいたい――
けれどこの碧の末裔と交わるわけにはいかない…
色違いだから――
…ふと気がつくと、言葉もなく颯太が睫毛が触れ合いそうな距離で見つめていた。
朱と碧が、交差する――
頬に触れられ、颯太が少し首を傾けながら近付いてくる。
逃げなかった。
むしろ、自分から近付いた。
唇と唇が、触れ合った。
やわらかい
あたたかい
きもちいい
全部全部…、独りでは感じることがなかった。
心の中で名を呼ぶ。
颯太。
わたしは、わたしが怖いのだ。
いつかお前は、わたしと出会ったことを後悔するのではないか、と。
わたしは、お前と出会えたことが今までの中で一番嬉しい。
――それは永遠に続くかのように長く長い口づけだった。
何度かついばむようにそれを繰り返し、颯太が顔を上げる。
「天花、俺は…」
続きを言おうとした矢先、思い出したかのように蝉が鳴きだした。
完全に陽が昇り、天花は淡い発光と共に朱い鳥へと戻る。
颯太は、今の瞬間まで天花を抱きしめていた両手をたたじっと眺めた。
もう、わたしは本来の姿に戻ってしまう。
いやだ。
このままでいたい――
はじめて願った。
人の姿のままでも構わない、と。
二人、抱き合ったまま静かで穏やかな時が流れる。
命を削って鳴く蝉も。
朝の到来を告げる眷属の小さな鳥たちも。
動を司る存在が一切、存在しないような空気。
天花は動かなかった。
颯太も、動かなかった。
――どれだけ時が流れただろうか、
天花が颯太が自分で傷つけた手を取ると、またちろりと傷痕を舐める。
わたしたちの唾液は、傷を癒すことができる。
わたしたちの血は、触れるとその生物の命を奪ってしまう。
…颯太の傷痕が、わずかな線を残して塞がった。
「…痛むか?」
そっと聞いた天花に、僅かに身体を起こして颯太が首を振った。
伏せた長い金の睫毛が、瞳が美しい。
愛してしまいたい――
けれどこの碧の末裔と交わるわけにはいかない…
色違いだから――
…ふと気がつくと、言葉もなく颯太が睫毛が触れ合いそうな距離で見つめていた。
朱と碧が、交差する――
頬に触れられ、颯太が少し首を傾けながら近付いてくる。
逃げなかった。
むしろ、自分から近付いた。
唇と唇が、触れ合った。
やわらかい
あたたかい
きもちいい
全部全部…、独りでは感じることがなかった。
心の中で名を呼ぶ。
颯太。
わたしは、わたしが怖いのだ。
いつかお前は、わたしと出会ったことを後悔するのではないか、と。
わたしは、お前と出会えたことが今までの中で一番嬉しい。
――それは永遠に続くかのように長く長い口づけだった。
何度かついばむようにそれを繰り返し、颯太が顔を上げる。
「天花、俺は…」
続きを言おうとした矢先、思い出したかのように蝉が鳴きだした。
完全に陽が昇り、天花は淡い発光と共に朱い鳥へと戻る。
颯太は、今の瞬間まで天花を抱きしめていた両手をたたじっと眺めた。