アカイトリ
時間は少々巻き戻る。
今日は25才の誕生日。
蘭は今年も年に一度訪れるこの日を台所で迎えることになりそうだ。
「あーあ…今年の誕生日も一人で迎えるのかあ…」
正確には、あと10分後。
できれば、颯太に一緒に祝ってほしかった。
去年は確か、女の所に…
一昨年も確か違う女の所に…
「やだやだ、不毛だわこんなのって。だいたい往生際悪いのよねあたしって」
「誰が往生際が悪いって?」
飛び上がる程に驚いて振り返ると、颯太が戸を開けて入ってくるところだった。
「そそそ、颯太様…っ」
「蘭、酒を用意してくれないか?ちょっと一杯やりたくてな」
「か…かしこまりました…」
どかっと椅子に腰掛けると、鼻歌まじりに机の上に飾ってあった薔薇の花をいじりだす。
…手遊びはしているが、何やら妙に視線を感じる。
振り返ると、凝視ともいえる視線で颯太がこちらを見ていた。
蘭は緊張してしまって、とっくりに酒を注ぐはずが、半分以上こぼれてしまう。
何とか平静を装って、颯太にとっくりとおちょこを手渡す。
「はい、あまり飲まないでくださいね」
「ああ、すまんな。まあ蘭、お前も座れ」
はい、と返事し、机を挟んで颯太の前に座ると、また穴が開くほど見つめてきた。
藍色の瞳の中に、自分が映っている――…!
蘭は内心嵐が吹き荒れる程に絶叫しつつも、こほんと咳ばらいをしてかしこまる。
「何ですか?蘭にご用ですか?」
「お前、あと少しで誕生日じゃないか?」
…覚えてくれてたっ!!
先程までの気苦労が馬鹿のように思えてきて、蘭は喜びを噛み殺すことができなかった。
「覚えてて…くれてたんですか…?」
「ああ勿論だ。今までは共に祝ってやれなかったが…ああ、でも何も用意してないな。何がほしい?」
あなたが、欲しい。
蘭は何とかそう言いたいのを堪えた。
だが、ひとつだけ、欲を言いたかった。
どうか、ひとつだけ。
「あたしを、抱きしめてください…」
もうすぐ、12時になる――
今日は25才の誕生日。
蘭は今年も年に一度訪れるこの日を台所で迎えることになりそうだ。
「あーあ…今年の誕生日も一人で迎えるのかあ…」
正確には、あと10分後。
できれば、颯太に一緒に祝ってほしかった。
去年は確か、女の所に…
一昨年も確か違う女の所に…
「やだやだ、不毛だわこんなのって。だいたい往生際悪いのよねあたしって」
「誰が往生際が悪いって?」
飛び上がる程に驚いて振り返ると、颯太が戸を開けて入ってくるところだった。
「そそそ、颯太様…っ」
「蘭、酒を用意してくれないか?ちょっと一杯やりたくてな」
「か…かしこまりました…」
どかっと椅子に腰掛けると、鼻歌まじりに机の上に飾ってあった薔薇の花をいじりだす。
…手遊びはしているが、何やら妙に視線を感じる。
振り返ると、凝視ともいえる視線で颯太がこちらを見ていた。
蘭は緊張してしまって、とっくりに酒を注ぐはずが、半分以上こぼれてしまう。
何とか平静を装って、颯太にとっくりとおちょこを手渡す。
「はい、あまり飲まないでくださいね」
「ああ、すまんな。まあ蘭、お前も座れ」
はい、と返事し、机を挟んで颯太の前に座ると、また穴が開くほど見つめてきた。
藍色の瞳の中に、自分が映っている――…!
蘭は内心嵐が吹き荒れる程に絶叫しつつも、こほんと咳ばらいをしてかしこまる。
「何ですか?蘭にご用ですか?」
「お前、あと少しで誕生日じゃないか?」
…覚えてくれてたっ!!
先程までの気苦労が馬鹿のように思えてきて、蘭は喜びを噛み殺すことができなかった。
「覚えてて…くれてたんですか…?」
「ああ勿論だ。今までは共に祝ってやれなかったが…ああ、でも何も用意してないな。何がほしい?」
あなたが、欲しい。
蘭は何とかそう言いたいのを堪えた。
だが、ひとつだけ、欲を言いたかった。
どうか、ひとつだけ。
「あたしを、抱きしめてください…」
もうすぐ、12時になる――