アカイトリ
あたたかい。


何か、真綿のようなものにくるまれて、足が地についていないような感じがする…


それに、何だ?

すべすべする。
きもちいい


――天花は、“それ”にすりすりする。


じっと耳を澄ますと、

どくん、どくん…

規則正しい音が聞こえてくる。


ああ、何なんだ、この安心感は?

ずっと、このままでいたい――…


「おい、あまりくっつかれると、変な気分になる」


はっと天花は瞳を開いた。

ものすごく間近で、颯太が含み笑いをしながら囁く。



「まだ夜明け前だ。昨晩の続きでもするか?」


「…?お前は一体何を言って……と言うよりも、何故ここに居る?」



気付けば抱き枕をされ、さらには自分の腕が颯太の身体に絡まっているではないか。


天花は慌ててがばっと起き上がる。


「な、何故ここに…」


「いや何、話の最中にお前が眠りこけてな、あんまり気持ち良さそうにしてたから一緒に寝させてもらったんだ」


ふわわ、と寝たまま欠伸をして、大きく伸びをし、肩肘をついてにやにやしている。


「寝顔が可愛かったぞ」


「な…んだと?……うるさいっ」


何だか羞恥心を刺激され、乱れた浴衣を直す。


…ついこの前まで、夜に人間に変わっても、服すら着たことがなかったのに。


「天花、屋敷の使用人たちがな、お前と話をしたいそうだ」


「何故だ」


「そりゃお前・・・興味津々だろう、主が囲っている女だからな」


囲う…


――嘲るように、ふん、と天花が鼻で笑う。


「囲われているのは、お前の方じゃないか?」


「お、よくもそんなことを」


天花の手を強く引いて胸に抱き寄せると、颯太は天花の鼻を軽く噛んで腰に手を回した。


「どうやらお前には調教が必要なようだ。俺は厳しいぞ」


「調教だと?わたしを飼い馴らせるものか」


だが、天花からの拒絶はなく、じっと颯太に抱かれている。


颯太はもう一度強く抱きしめると、白み始めた外を見て天花の髪を撫でた。


「ともかく、使用人たちと話してみてくれ。人間は思う程に悪い奴らばかりではないぞ」


「……わかった」


承知の声を聞いた直後、天花は朱い鳥に戻った。


「さ、屋根に上って風見鶏になってこい」
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