アカイトリ
その女…天花は最高に美しかった。


艶めく朱い髪と瞳…

なまめかしい白い肌と、きゅっと引き締められた唇…

芹生は、ごくり、と喉を鳴らしてしまった。


「はじめて天花様と話したぞーっ」


飛び上がって喜び、子犬のように天花の回りを走り回る。

最初、それを困惑気味に見ていた天花だったが、くすりと笑い、瞳を瞬かせた。


「おかしな奴だな」


「えっ、でも楓さんと蘭さんを除けば天花様と話したのは俺だけなんですよ?すげー、みんなに自慢しよっと!」


あまりにも騒ぐので、他の使用人たちがあちこちから顔を出して様子を伺っている。


芹生は気持ちの高揚のままに天花の手を引いた。

が・…

直後に、ぱっと手を離してしまう。

怪訝げに首をかしげている天花の手は、


恐ろしく滑らかで、

恐ろしく柔らかかった。


「えっと…えっとぉ…あっそうだ、おーいみんな、天花様とお話できるぞー!早く集まれー!」


「い、いや、わたしは…」


断ろうにも、騒ぎを聞き付けてあちこちから使用人たちが集まり始めていた。


「うわー、本当になんてお綺麗な方なんだ…」


「さすが我らが颯太様が惚れ込まれたお方だ」


口々に賛辞を述べられ、大勢の人間に囲まれ、天花は気が動転する寸前だった。

この屋敷の者は、天花の正体を知っている。


魔性の者であるのに、分け隔てなく接してくれている。


それが、天花の心の琴線に触れた。


あたたかい…


求めていたものを、惜しみなく与えてくれる場所と、人。


人間は憎い。

神も、憎い。


けれど、優しい。
こんな自分を、受け入れてくれる…



ぽろぽろと大きな朱い瞳から涙が零れはじめ、芹生たちは動揺した。


「わっ、わっ!天花様、どうされたんですか?どこか痛いんですかっ?」


「いや…いや、違う…」


涙が止まらない。

この涙すらも、あたたかい…


「今日はそれまでにしてやってくれないか」



様子を見守っていた颯太が部屋から出てきて手を差し延べた。


「おいで、天花」


真っ直ぐ天花が颯太に向かい、その胸に飛び込んだ。

使用人たちからは、感嘆のため息が漏れる。



「人に慣れていないんだ。皆、時間をかけてあたためてやってくれ。この雛鳥を…」


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