アカイトリ
「俺、親が居ないんですよ」


――夜になると、何故か芹生と少し話すのが日課になっていた天花は、それを聞いて池の魚から目を移した。


芹生も一緒になって隣にしゃがみ込むと、ばしゃりと水を叩く。


「生まれた時から居なかったらしくて。俺を拾ってくれた人が庭師だったんです。だから俺も庭師になったんですよ」


「…何故、親が居ないんだ?」


そう聞かれると、どう答えていいのかわからず、うーんと芹生は唸った。


「何でかな?けど居なかったもんは今考えたって仕方ないし。気にしてないけど…」


――ふわふわのくせっ毛を指先でいじりながら、あぐらをかいた。



「天花様は?どこから来たんですか?」



そう問われ、天花は颯太に言い含められた言葉を思い出す。



『芹生はまだ見習い扱いだ。口が固いかどうか見定めているところだから、お前は正体を明かすんじゃないぞ』



…無邪気に聞いてくる芹生には悪いが、一応間違ってはいないことを言う。


「遠くから来た。親は、お前と同じで生きているかも知らない」


憧れの天花からそう言われ、芹生は少し焦ると元気を出してもらおうと努めて明るい口調で天花を励ます。



「あっほら、あれですよ、天花様は颯太様の元に嫁ぐんでしょう?家族なんてすぐに沢山できますよっ」



美男美女の夫婦。

生まれてくる子供もさぞかし可愛いに違いない。


――想像するだけで一日を過ごせそうな勢いになり、天花に視線を戻した。


…芹生のあたたかな想像に対しての返答はなく、ただ池の魚を眺めている。



「ご主人様…颯太様は、お優しいでしょう?俺、一生お仕えしてみせます。つまりは天花様とも一生の付き合いになるわけだ!!」



漲る興奮と共にすくっと立ち上がると、勢いよく天花の腕を引いて立たせ、ぺこりと頭を下げた。


「天花様、不自由なことがあれば何なりとおっしゃって下さいねっ、この庭師芹生がお小姓のように甲斐甲斐しくお世話させていただきますっ」


言い終えると脱兎の如く走り去った芹生を見送り、天花はぼんやりとしたまま颯太の元へ向かった。
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