アカイトリ
「夫婦とは何だ?」


突然の天花の問い掛けに、筆を止めた。


「…何だと?」


最近、天花はよく質問をしてくる。

全てが、人間についてだ。

それはとても良い兆候なので、使用人たちと話す時間を持たせたのは正解だった。



「夫婦とは何か、か。わからんな、俺が聞きたい位だ」


「お前も知らないのか」



外から良い風が入ってくる。


「お前流に言わせると、つがいとなることだが・…人間は、一生つがいとなる神の鳥たちと違い、離縁したりもするぞ」


――天花が眉間にしわを寄せて顔をしかめた。


「添い遂げないのか?」


「大概は添い遂げるが…心移りをしたり、喧嘩別れしたりな。色々だ」


ふうん…と呟き、団扇でそよそよと風を作り出しながら外に視線を向けた。


「随分と仕組みが違うものなんだな」


「数十年しか生きられんのだから、一人の人間に絞るのは至難の業だぞ」


再び筆を進めつつ、そう言うと、痛い程に視線を感じて顔を上げた。



「…お前の天命は、変わらないのか?」



――避けては通れない、命の長さ。



「…ああ。どうあがいても、あと十数年だろうな」


「……」



まだ、じっと何か言いたそうにこちらを見つめる天花に、颯太は筆を置いて座椅子に深く腰掛けて腕を組んだ。



「何だ?何が言いたいんだ?」


「お前は…知らないのか?」


「?だから、何をだ?」


「碧は…その方法を伝えていないんだな?」



…全く意味がわからない。

風呂上がりなため、濡れた金の髪をかきあげて颯太は首を振った。


「言ってる意味がわからないな。碧が何を遺したか、だと?全てに目を通したはずだが…」


――天花は、しばらく颯太を眺めた後、またふいっと庭園に視線を戻す。


「…何でもない。気にするな」


「いや、そう言われてもな」


腰を上げて天花の隣へ移動した。



「俺に、死んでほしくないか?」



それには答えず、束ねた朱い髪がたださらりと肩を流れ落ちた。
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