アカイトリ
人に変わっている間は、大したことはできない。


また、首の鎖がさらに残された力を奪い、もはや無力だった。


草を踏みしめ、花々と緑がそよそよと風に揺らされる中――


天花は庭園の真ん中に立ち、深く深呼吸をすると、両腕を広げた。


部屋の中からその様子を颯太が腕組みをして見守る。


すると…


どこからともなく、色とりどりの蝶たちが現れ、天花の回りを舞いだした。


…なんと、幻想的な光景か。



伸ばした指先に止まり、髪飾りのように髪に留まる。


美しい瞳を閉じたまま動かない天花に吸い寄せられるように、颯太が傍らに立った。


天花は動かない。



「天花、お前自体が花なのだな。お前は…奇跡の存在だ」



うっすらと朱い瞳が開く。



「わたしたち神の鳥の色は、楽園に咲く花から色をつけられたという。だから、香る」



天花の回りを舞っていた蝶が、今度は次々と颯太の回りを飛び出す。



篝火が空を焦がし、さらに魅惑的な光景を生み出していた。



「お前も碧い鳥の末裔。お前もまた奇跡のような存在だ…。わたしの頑なな心を溶かした。わたしの頑なだった人間への憎しみを、少しでも和らげた」



「ふふ…本当に、髪飾りのようだな」



天花の髪に留まり、羽根を広げては閉じる青色の蝶。



赤い炎が二人の影を長く伸ばす。



あと少しで、不死の方法を言ってしまうところだった…。



だがこの男は、不死を望まないだろう。



「俺が奇跡の存在だと?この髪の色に生まれた時はたいそう不気味がられたんだぞ。それでも奇跡か?」



――その髪の色を持っている存在を、一人だけ知っている。



会ったことはない。


これからも、会うことはないだろう。



壊れ物でも扱うかのように颯太が天花の頬に触れようとして直前で手を止めた。


「…触れてもいいか?」


「…ああ」



近付く顔。

ちろり、と天花の唇を舐めた後、深く口づけてきた。


天花は祈った。


祈る存在はいないが、何かに祈った。



“わたしと永遠を生きないか…?”



心で問いかけた。

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