アカイトリ
翌朝、天花は早朝、まだ陽が昇らないうちに庭園の池の前までやって来た。
小さな眷属のか弱き鳥たちが我こそは、と群がってきては、近くの木に止まり、天花を見ている。
生まれてはじめて、一日を通じて人に変わる。
初体験ではあるが、それが後ほど苦痛を伴う行為とも知りつつ、天花は省みない。
植え付けられた呪詛を取り除くため…
取り除けなくとも、自身の胸の内を少なくとも軽くするために、人里に降り立つ決意をした。
――天花は瞳を閉じ、両腕を胸の前で交差させると意識下にある鳥の本性を隅に押しやった。
方法は知らなかったが、そうやれば人に変われることは何故か知っていた。
一瞬の発光の後、瞳を開けて池に映る姿を覗く。
…人のままだ。
成功した。
…ゆっくりと立ち上がると、まだ寝ているであろう颯太の部屋へと向かい、障子を開く。
枕を抱きしめて、気持ち良さそうに寝ている。
長めの金色の前髪が、後ろ髪が、どうにもまばゆい。
気持ちが逸る天花は、膝を折って颯太の肩を揺さぶった。
「おい、起きろ、朝だぞ。わたしの姿を見ろ…」
女にしては低くかすれた声で呼びかけると、ゆっくりと颯太の瞳が開いた。
「…んん…?」
まだ寝ぼけている颯太を今度は強く揺さぶる。
「朝だ。わたしは人のままだぞ、術は成功して…」
言い終えないうちに腕を引っ張られ、布団の中に連れ込まれた。
ぎゅう、と胸の中に抱きしめられる。
「そうか…それはよかったな…だが天花…まだ早いぞ、もう少し眠らせてくれ…」
頭を撫でられ、再び安らかな寝息を立てる。
…あたたかい。
いかに今まで自分がそれに飢えていたかを思い知らされる。
はだけた浴衣の間から、ちらりと胸の鈎爪の刻印が見えた。
つがいの証。
指先でそっとそれに触れる。
颯太は起きない。
今度は、大胆にもそれに唇で触れた。
一瞬身体が動いたが、起きなかった。
美しいこの男を失いたくはない。
もう、独りにはなりたくない――
小さな眷属のか弱き鳥たちが我こそは、と群がってきては、近くの木に止まり、天花を見ている。
生まれてはじめて、一日を通じて人に変わる。
初体験ではあるが、それが後ほど苦痛を伴う行為とも知りつつ、天花は省みない。
植え付けられた呪詛を取り除くため…
取り除けなくとも、自身の胸の内を少なくとも軽くするために、人里に降り立つ決意をした。
――天花は瞳を閉じ、両腕を胸の前で交差させると意識下にある鳥の本性を隅に押しやった。
方法は知らなかったが、そうやれば人に変われることは何故か知っていた。
一瞬の発光の後、瞳を開けて池に映る姿を覗く。
…人のままだ。
成功した。
…ゆっくりと立ち上がると、まだ寝ているであろう颯太の部屋へと向かい、障子を開く。
枕を抱きしめて、気持ち良さそうに寝ている。
長めの金色の前髪が、後ろ髪が、どうにもまばゆい。
気持ちが逸る天花は、膝を折って颯太の肩を揺さぶった。
「おい、起きろ、朝だぞ。わたしの姿を見ろ…」
女にしては低くかすれた声で呼びかけると、ゆっくりと颯太の瞳が開いた。
「…んん…?」
まだ寝ぼけている颯太を今度は強く揺さぶる。
「朝だ。わたしは人のままだぞ、術は成功して…」
言い終えないうちに腕を引っ張られ、布団の中に連れ込まれた。
ぎゅう、と胸の中に抱きしめられる。
「そうか…それはよかったな…だが天花…まだ早いぞ、もう少し眠らせてくれ…」
頭を撫でられ、再び安らかな寝息を立てる。
…あたたかい。
いかに今まで自分がそれに飢えていたかを思い知らされる。
はだけた浴衣の間から、ちらりと胸の鈎爪の刻印が見えた。
つがいの証。
指先でそっとそれに触れる。
颯太は起きない。
今度は、大胆にもそれに唇で触れた。
一瞬身体が動いたが、起きなかった。
美しいこの男を失いたくはない。
もう、独りにはなりたくない――