アカイトリ
屋敷から一歩も出ない天花のことを気にしていた芹生だったが…


どうやら明日は颯太と共に外出するらしい、という話を使用人仲間から聞き、まるで我がことのように芹生は喜んだ。


「とうとう街の皆にもお披露目なんだー、見れば驚くぞ、天花様は本当にお美しいんだからな!」


歓楽街の行きつけの飲み屋で芹生は友人と酒を飲んでいた。


開始から一時間で、すでに完全にできあがっている。


「でもな、どうにも合点がいかないのが、あの朱い鳥と天花様が同じ部屋に居るということなんだ」


仲間うちがほうほう、と先を促し、ますます芹生は酒の勢いが増してゆく。


「真っ赤な天花様に、真っ赤な鳥…それに、なんともいえないあの良い香り…!お前たちにも早く見せてやりたい!」


おーい店主、もう一杯!と声をかけた時、机にどんと特大のとっくりが置かれ、芹生は少しぼやけた目をこすった。


がたいの良い男が三人、芹生の友人たちを鋭い眼光で退けると、同じ席につく。


「なあ兄ちゃん、さっきから面白い話してるな。赤い女だって?まあ一杯飲みなよ」


見ず知らずの相手に酒を勧められ、だがこの時の芹生は警戒心が働かず、すまねえ、と言って注がれた酒を一気飲みした。


「ああ、うちのご主人様の女なんだ。瞳は朱いわ髪は朱いわ良い香りはするやらで…」


「ほう、まるで…………のようだな」


その部分が聞き取れず、聞き返そうとしたが、男たちは席を立った。


「ありがとよ、面白い話を聞かせてもらったよ」


立ち去る男たちを見送り、店内を見回すと・・・先程まで居た友人たちが居ない。


「おっと、もうこんな時間か!明日、お供できないかどうかご主人様にお聞きしてみよう!」


千鳥足になりつつも、意気揚々と店を出た。


「……?」


風に乗って、何やら良い香りがする。



それは颯太のものではなく、天花のものでもなかった。



「おっといけない、門番に扉を閉められちゃうぞっ」



駆け足で立ち去る芹生を、漆黒の闇の中――



漆黒の瞳が、見つめていた。

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