アカイトリ
寝ぼけて早朝の記憶はあまりないが、腕の中ですやすや眠っている天花を見て颯太はひとりごちた。


「お前な…襲ってほしいのか?」


身体に絡まった天花の腕をそっと外し、障子を開けて外に出て大きく伸びをした。


「ご主人様、おはようございますっ」


…あれは庭師見習いの芹生だ。

随分と天花もこれには慣れて話をしている姿を見かける。


「ああ、おはよう。良い朝だな」


何やら自分を見上げてもじもじしている。

縁側に腰掛けると、目の前で芹生が膝を折った。


「ご主人様、不躾ではありますがお願いがありましてっ」


良い働きぶりを見せていると、蘭たちからも聞いている真面目な青年を颯太はじっと見つめる。


「どうした?言ってみろ」


なまじ、主と殆ど会話を交わしたことのない芹生は緊張で舞い上がってしまい、顔を真っ赤にさせた。


「俺…いや、私を連れて行ってはもらえないでしょうかっ?」




……しばらく沈黙が下りる。

恐る恐る顔を上げると、何故か底意地の悪い笑みを浮かべていた。


…それすらも、美しいのだが。


「さて、どうしたものか」


「一緒に連れて行ってやれ」


背後から上がった声に振り向くと、天花が立っていた。


「何故起こさなかった?」


「いや、よく眠っていたからな」


主の部屋から出てきた天花を見て芹生は内心絶叫する。


…夜を一緒に過ごしたんだっ!!!!


さらに真っ赤になってしまった芹生に二人は気付かず、街に下りる予定の時間を過ぎたことで、楓が馬と蘭を連れて現れた。


まだ颯太の部屋に居て、明らかに寝起き…

そして人のままでそこに居る天花――


蘭は衝撃で、瞳を限界にまで見開いた。

それを楓が馬の首を撫でながらそっと見つめる。


「もうそんな時間か。…?蘭、どうした?顔色が悪いぞ?」


ちっとも想いに気付かない颯太。


「…夢見が悪くって。お出かけですか?」


立ち上がり、天花を蘭の前に押しやると颯太は欠伸を噛み殺した。


「着替えを。あと、髪を結ってやってくれ。」


…残酷だ。


蘭は小さく返事をして俯き、楓は天花を鋭い眼光で睨め付け、芹生は随伴を許可され、小躍りした。
< 66 / 160 >

この作品をシェア

pagetop