アカイトリ
颯太の細くか弱い、息も絶え絶えな息遣いだけが部屋に満ちる。


天花は寝かせられた颯太に近付くと膝を折り、楓と蘭に静かに言った。


「少しでいい。二人にさせてくれ」


「何を言うのよ!」


「ふざけるな!!」


罵倒を浴びてもなお、意志のこもった強い瞳で二人を見据える。


「絶対に、死なせはしない。だから、頼む」


…正直、楓と蘭は気圧された。


圧倒的に、同じ生き物ではない存在感。


気高き生き物――


――楓は歯噛みすると、蘭の腕を引っ張って天花を残して部屋から出る。


嘘偽りはない。

颯太の命を、あの朱い鳥は助けるだろう。


「俺たちでは、助けることができない…」


…嫌がる蘭を無理矢理に部屋から連れ出し、楓は空に祈った。


^^天花は部屋に残り、どくどくと溢れ出る傷口にそっと掌を乗せた。


うっ、と颯太が呻いたが、急を要する。


浅く呼吸して息を整え、颯太の身体を駆け巡る、碧の血に…魂に、呼び掛ける。



「碧い鳥の血よ…目覚め、汝の子を助けるのだ。血は薄れとも、死なせてはならない。絶対に……」



すると颯太の心臓に刻印された三つ爪の刻印が、青白く発光しだした。


さらに天花は、颯太の細胞に呼びかける。


――しばらくすると、血が止まった。


颯太の息が、ふっと浅くなり、脂汗が引いた。


これでもう、出血することはないだろう。


颯太の内に眠る、碧い鳥 の血は今も脈々と受け継がれている。


だが、瀕死には変わりない。



「颯太…」



はじめて、名を呼んだ。


「死ぬな、颯太…」


――左肩から右腰まで裂かれた傷口を、天花の唇が…舌が、這った。


颯太が小さく呻く。

さぞ痛むだろう…。



「わたしの唾液は、傷を癒す。耐えて目覚めるのだ。わたしはまた、お前に名を呼ばれたい……」

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