もしも君が助けてくれたら
[side 輝]

その日、偶然なのか、出会いがあった。

とりあえず入部届けは親のサインが無かったため、出せなかったから、さっさと家に帰ろうと思って正門を出て、少し歩いた先に誰か二人がもめ事をしていたのを見つけた。

近くに行くにつれて声はだんだんと大きくなる。

よくみると、まだ中学生ぐらいの青年と40歳くらいの女の人だった。

「だからしつこいんだよ!!俺はいかねぇって言ってんだろ!!」

「でも、やっぱりお母さんはもう・・・」

「母さんはまだ生きてる!姉ちゃんがそう言ってんだ!」

「あなたのお姉ちゃんはね、多分、あなたを慰めようとしてるのよ・・・」

「姉ちゃんが俺に嘘つくってのか!?それだったら俺は今頃気づいてるよ!」

「でも、お母さんは・・・」

「しつけぇんだよ!さっさとどっかいけよ!俺はあの家から離れることはぜってぇしねぇからな。姉ちゃんが行けっつってもあの家からは離れねぇからな!」

どういう言い争いなのか、まったく検討がつかない俺はその二人の横を横切ろうとしたが、次の一言で首をつっこんでしまう。

不可抗力だ。

「夏君。由良ちゃんは一人でも大丈夫よ。きっと由良ちゃんもそう思ってるわ」

「はぁ!?姉ちゃんが一人で大丈夫?ふざけんな!!」

夏、その瞬間何かがつながった。

由良の弟、夏だ。

夏は女の人を殴ろうとしたのか、拳を振りあげた。

俺は慌ててそれを止めた。

夏の鋭い目がこちらを振り返る。

初めてみた由良の弟の顔。

確かに・・・、狩谷にそっくりだ。

というか、狩谷の幼い頃、といってもおかしくない。

この顔がこの人たちはほしいのか。

俺は女の人を見下げた。

「俺、こいつの友達の曉輝って言います。で、その姉の由良とも友達です。由良は一人では大丈夫ではありません。いつも、つまらなさそうな、どこか悲しい顔をしています。由良からこいつとったら、由良が悲しみます。だからやめてください。由良からコイツとるの、やめてください」

夏が驚いた顔をしたけれど、状況判断が上手いのか、それとも冷静なのか、すぐに俺に合わせてくれた。

「俺、コイツだけ信用できて、母さんのこと言ってるんだ。母さんが鬱病だってことと、眼が見えないこと、肺にガンがあること、全部。父さんが狩谷だってことも言ってる。姉ちゃんが病気に弱いことも、離婚した理由も全部言ってる。それを知ってコイツ姉ちゃんと話してくれてさ、姉ちゃんが本音をコイツに言った。だから、俺はあの家にいる」

女の人は俺と夏を交互にみて、小さなため息をもらした。

「少し、考えてみるわ・・・。これからのこと・・・」

そして、背を曲げて帰っていった。

残ったのは、柊の弟と俺だけ。

けど、柊の弟はあっけらかんと言った。

「ねぇ、今からあんた暇?」
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