週末の薬指
シュンペーは、私の言葉に、一瞬苦しそうな顔をした。その表情の意味がわからないけれど、そういえば、さっき会社でも、私が結婚式の話題を出した時に辛そうな顔をしたっけ……?

あまり結婚式の事を話題にしたくないのかな。大げさに言いたくないとか、入籍のみで式や披露宴はしないのかな?彼女の体の事もあるし。

シュンペーの落ち込んだようにも見える表情が気になっていろいろ考えていると、シュンペーは大きく息を吐いて。

「あいつ……子供は産むけど、結婚はしたくないって言ってるんですよ。俺と一緒に暮らしてもいいけど籍は入れたくないって、譲らなくて困ってるんです」

「え……?」

予想外の言葉を聞いて、かなり驚いた。

結婚しないって、籍は入れないって、そんなの、あり?シュンペーの彼女、どうしてそんな気持ちになるんだ?

「で、その彼女の事を今日は相談したかったんです……」

「あ、そうなんだ」

そうか、その事を同じ女の私に相談して、アドバイスでも欲しかったのか。

だから、今日ランチに誘ってきたんだ。

でも、私には何もいいアドバイスはできないと思うんだけどな……私はちゃんと籍を入れたいし、一枚の紙切れが持つ重さをよくわかってるから。

「木内さんに相談したいのって……木内さんにとってはいい気分になる話じゃないと、よくわかってるんですけど……「シュンペーっ」」

シュンペーの言葉を遮るように弥生ちゃんの声がかぶさった。

心なしか緊張しているような顔と声に、驚いたと同時に、私の手を握っている夏弥の手の力が痛いほど強くなった。

な、何?見上げた夏弥の顔は、不安げに私を見つめていた。

そして、弥生ちゃんに制されたにも関わらず、シュンペーの言葉は続いた。

かなり真剣な瞳を向けられて、なんだか私も緊張する。

「木内さん、気を悪くすると思うんですけど……。お父さんがいないって、戸籍にもその存在がないって、つらいですよね……。すみません、失礼なことを聞いてるのはわかってるんです。
でも、俺の子供をそんなつらい思いの中に放り込みたくないのに、あいつが……俺に認知もして欲しくないって言い出してるんで、どうしていいかわからなくて」
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