週末の薬指
言いづらそうに呟く声が気になって、思わず夏弥の顔を見上げた。

眉を寄せて面倒くさそうにため息。自分の仕事に誇りを持っている夏弥が、仕事の事でこんな表情をしているのを初めて見た。

「沖縄って、いいね。お客様がいるの?」

「いや、営業の仕事じゃないんだ」

吐き捨てるような口調に思わずびくついた。

そんな私に気づいた夏弥は、『悪い』と聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いて私の手を取った。

絡ませあった指先にぎゅっと力がこめられると、私の気持ちも少し落ち着いた。

「CM撮りに付き合うんだ。隠すのも嫌だから、言っておくけど、美月 梓 と一緒だ。
彼女からの迷惑な要求のせいで、俺まで駆り出されることになった。
俺が沖縄の撮影に付き合わない限り、CM出演の契約は継続しないそうだ。
くそっ。いっそ契約なんて切っちまえよな」

「美月 梓、沖縄……。えっと、一緒に、行くのよね……」

「いや、現地集合だけど、ほぼ2日間は一緒に行動することになる。……心配か?」

歩くスピードを落とす事なく淡々と話続ける夏弥に、視線を向けると、夏弥のそれと重なった。

まるで私の瞳に現れているに違いない不安をそのまま同じだけ感じているみたいに不安げな色を帯びた瞳。夏弥の表情も苦しそうだった。

「そりゃ、心配じゃないとは言い切れないけど……仕事なら、行かないでなんて言えない。
私もそれなりに重い仕事してるし……」

「言えばいいのに。『行かないで』って言って欲しいのに」

「言えば、行かない?」

「いや、そういうわけにはいかない」

「……結局、行くんじゃない」

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