週末の薬指
ぼんやりと想像していると、

「あ、そうそう、お昼休みだから、そんなに時間ないのよね?」

腕時計に目を落としながら、希未さんが慌てたように声を上げた。

「瀬尾さんが選んで、取り置きしているのはこの指輪なのよ」

希未さんは、背後にある扉を開けると、丁寧に何かを取り出した。

ベルベット素材の紫色のトレーには、きらきらとその輝きを主張しているダイヤの指輪が鎮座していた。

「わ……きれい」

目の前に置かれたその指輪は、プラチナの台にダイヤの粒が3個並んでいる。

真ん中だけが大きくてサイドの二つは一回り小さめ。見慣れないその光は、私にはまぶしくて、でも目が離せない。

アクセサリーには興味がなくて、指輪に限らず宝石と接する機会はほとんどなかったけれど、こうして目の前にするとその輝きの価値に目を奪われる。

「気に入った?」

「え?あ、うん、気に入ったっていうか、これって、私に?」

耳元に落とされる夏弥の声に、震えながらもなお、その指輪から目が離せない。

「花緒以外のどの女にやるんだよ。指輪なんて選ぶの初めてだから、希未さんにいろいろ教えてもらいながら選んだけど、どうだ?」

「……すごく素敵。ダイヤがこんなに綺麗なものだって初めて知った」

ダイヤモンドに限らず、宝石全般に対する知識がない私には、見た目の綺麗さでしか判断できないけれど、目の前のダイヤはとても素敵で目が離せない。

見る角度を変える度に同じように輝きの色合いも変わるようだ。

「瀬尾さんがこの指輪を気に入って選んだんですけど、私もおすすめです。
上質の指輪は長く持てますよ。このデザインなら流行に左右される事もないですから」

希未さんが白い手袋をはめて、ゆっくりとその指輪を取った。

「サイズ、みましょうか」

「え?」

「はめてみましょう。きっとお似合いですよ」
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