週末の薬指
そして、そのメールを送信してすぐに。

『ばか。私と子供は重いよ。ちゃんと体力と財力と、愛情いっぱい抱えてきて。待ってる』

添付されていた写真は、赤ちゃんの超音波写真。小さな袋のようなものが写っていて、他人の私でさえ気持ちが揺らいだ。

こうして赤ちゃんはお腹で育っていくんだな。

今までまじまじとこんな写真を見た事なかったし、見たいとも思わなかった。

というか、何も考えた事がなかったから、実際に目の前で写真を見ると、自分が知らなかった感情が溢れてきて何とも言えない妙な気持ちになった。

私もいつか赤ちゃんを産んでみたいと、そう思う気持ちももちろん湧いてくるし、その赤ちゃんの父親は夏弥しか考えられない。

近いうちに、夏弥の子供を産みたいって、確かに思うけれど。

その思いとは別に、『私もこんな風にお母さんのお腹で育ったんだ』って当たり前の事に気づいた衝撃。その感情の方が大きかった。

40週をお母さんのお腹で過ごしたはずの自分の過去を思い返して、記憶にない母親を探した。

体が弱くて命を懸けての出産。そして、死んでしまった母親への思いが、この年になって変化していく。

夏弥という恋人ができて、愛し愛される幸せを実感し、子供を産んでみたいと思う感情に支配されて。

『記憶も実感もない、写真の中の女性』から『愛する人の子供を命がけで産んだ母親』

へと、母親への思いが変わっていくことに気づいた。

確かに、今までは命を懸けてまで私を産んだ母親の気持ちが理解できずにいた。

結局私生児としてしかこの世に私を送り出す事ができないと、わかっていながらどうして私を産んだのか、恨みに似た気持ちを抱いたこともあった。

でも、今なら何となくわかる気がする。

愛する人の子供を殺すなんて絶対にできないんだ。

そう思った瞬間、母さんへの重い感情が少し溶けたように思えた。

シュンペーが大事そうに見ている超音波写真だって、暖かいものに思えた。
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