週末の薬指
* * *
その晩食事もお風呂も終えて、部屋でお茶を飲みながら、夏弥に電話をしようかどうしようか迷っていると、携帯が鳴った。
びっくりして画面を見ると、夏弥からだった。その瞬間気持ちは明るくなって、舞い上がった状態で電話に出た。
「夏弥?沖縄はどう?」
夏弥からの電話が嬉しくて、かなり早口でそう言った。
携帯の向こうから、くすくす笑う声が聞こえて
『そんなに電話待ってたのか?』
からかうような夏弥の囁きが届いた。今
朝聞いたばかりなのに、すごく懐かしくて愛しい声。
携帯をぎゅっと握りしめた。
「待ってたよ。こっちからかけていいのかも悩んでたから今かかってきてびっくりした」
『そうか。かけてきたかったらいつでもいいぞ。ただ、出られない時もあるからその時は伝言を残しておいてくれ。でも、なんだかいつもよりも素直だな』
「え?あ、そうかな……。だって、沖縄だし……」
『だな、俺も早く帰りたいよ。ま、明日一日仕事して、お土産買って帰るから待ってろ』
優しい声に、ふつふつと幸せが溢れてきて、ほっとする。
普段だって、毎日会えるわけじゃないし、二、三日離れるくらいどうってことな
い。
こうして電話で話してれば距離なんて関係ない。
金曜日には会えるんだから、大丈夫。
「お土産はいらないよ。高い指輪買ってくれたんだし、もう何もいらないから。元気で帰ってきて」
明るくそう言ったその気持ちに嘘なんてない。
今は名前を刻印してもらうためにお店に預けてある指輪。
『週末、一緒に取りにいこうな』
「うん。結婚指輪もできあがってくるって言ってたね。楽しみ」
婚約指輪と一緒に買った結婚指輪は、夏弥もはめると言ってくれた。
夏弥が誰のものかを、ちゃんと私に知っておいて欲しいと、そんな甘い言葉とともに。
『明日は日中撮影でばたばたしてるから電話できないかもしれないけど、夜中には連絡できると思う。遅くても、かけていいか?』
「もちろん、いいよ。……待ってる」
『わかった。……そんなに花緒が素直に答えてくれるなら、たまにこうして出張もいいな』
くくっと笑う声が携帯の向こうから聞こえて、私の顔は真っ赤になった。
距離ができている寂しさからか、どうしても素直になってしまう。
「あ、えっと……私、その……待ってるから、明日も電話して」
早口でそれだけをつぶやいて、大きく息を吐いた。
相変わらず軽く笑ってるような空気がこちらにも伝わってきて、どうしようもない気持ちでいると。
『夏弥さん、みんなで一緒に飲みましょう』
携帯の向こうから、はっきりと女性の声だとわかる声が、聞こえた。