週末の薬指
気付かされた感情
1
美月梓の熱愛は、その日のワイドショーで何度も報じられた。
朝からずっと、その話題一色で、彼女の名前の凄さに驚いてしまった。
今回熱愛の相手として騒がれている『住宅会社の営業マン』というのはきっと夏弥のことだろう。
『沖縄での熱い夜』だとか『長い春の末の結婚か』だとか、夏弥を連想させる煽り文句ばかりが耳に入ってきては不安になる。
これまで恋愛スキャンダルには無縁だった美月梓の話題は、世間を驚かせるには十分で、彼女が出演しているCMが流れる度に視聴者はじっと見入る。
そして彼女の恋人がどんな人だろうと噂話に花を咲かせる。
恋愛の相手が一般人だという事で、名前も顔もオープンにはされていないけれど、私には夏弥が恋人と噂されている男性だとわかってしまう。
夕べ夏弥と彼女との親しい距離感を感じた携帯の向こう側。
今でも、夏弥が『梓』と呼んだ声が何度も頭をよぎり、その声が私の気持ちをどんと落ち込ませる。
「木内さん、このデータ、俺のPCに送ってもらっていいですか?……木内さん?」
「は……?あ、データ、データね。どれ?」
ぼんやりとしていた私の向かいで、シュンペーが苦笑している。
手にしていた資料を私に差し出しながら、気を遣ってくれてるのか
「コーヒーでも入れてきましょうか?」
そう言ってくれた。ううん、言わせてしまった。
「ごめん、大丈夫だよ。あー。でもちょっと休憩しようかな。で、えっと、このデータね。すぐに送る」
夏弥の事を考えすぎて仕事が手につかないなんて、私らしくない。
とりあえずシュンペーが欲しがってるデータを送信して、机に広げていた会議用の資料を手早く片づけた。
「ちょっと休憩してくる。食堂の端にいるから、何かあったら携帯鳴らして」
「わかりました。あ、午後からの出張、俺一人でも大丈夫ですよ」
「あ、いいよ、大丈夫。私も聞いておきたいことあるし、一緒に行く。気を遣わせて、ごめん」
そんな私をシュンペーが心配そうに見ているけれど、今の重い気持ちを吹っ切って、明るい言葉はこれ以上言えない。
とにかく気持ちを落ち着かせて、夏弥の事を信じられる自分に軌道修正しなきゃいけない。
夕べの電話で聞いた声に不安を煽られるのは確かだけど、『何もない』と彼女との事を言っていた夏弥を信じられると思うのも確か。
朝からずっと、その話題一色で、彼女の名前の凄さに驚いてしまった。
今回熱愛の相手として騒がれている『住宅会社の営業マン』というのはきっと夏弥のことだろう。
『沖縄での熱い夜』だとか『長い春の末の結婚か』だとか、夏弥を連想させる煽り文句ばかりが耳に入ってきては不安になる。
これまで恋愛スキャンダルには無縁だった美月梓の話題は、世間を驚かせるには十分で、彼女が出演しているCMが流れる度に視聴者はじっと見入る。
そして彼女の恋人がどんな人だろうと噂話に花を咲かせる。
恋愛の相手が一般人だという事で、名前も顔もオープンにはされていないけれど、私には夏弥が恋人と噂されている男性だとわかってしまう。
夕べ夏弥と彼女との親しい距離感を感じた携帯の向こう側。
今でも、夏弥が『梓』と呼んだ声が何度も頭をよぎり、その声が私の気持ちをどんと落ち込ませる。
「木内さん、このデータ、俺のPCに送ってもらっていいですか?……木内さん?」
「は……?あ、データ、データね。どれ?」
ぼんやりとしていた私の向かいで、シュンペーが苦笑している。
手にしていた資料を私に差し出しながら、気を遣ってくれてるのか
「コーヒーでも入れてきましょうか?」
そう言ってくれた。ううん、言わせてしまった。
「ごめん、大丈夫だよ。あー。でもちょっと休憩しようかな。で、えっと、このデータね。すぐに送る」
夏弥の事を考えすぎて仕事が手につかないなんて、私らしくない。
とりあえずシュンペーが欲しがってるデータを送信して、机に広げていた会議用の資料を手早く片づけた。
「ちょっと休憩してくる。食堂の端にいるから、何かあったら携帯鳴らして」
「わかりました。あ、午後からの出張、俺一人でも大丈夫ですよ」
「あ、いいよ、大丈夫。私も聞いておきたいことあるし、一緒に行く。気を遣わせて、ごめん」
そんな私をシュンペーが心配そうに見ているけれど、今の重い気持ちを吹っ切って、明るい言葉はこれ以上言えない。
とにかく気持ちを落ち着かせて、夏弥の事を信じられる自分に軌道修正しなきゃいけない。
夕べの電話で聞いた声に不安を煽られるのは確かだけど、『何もない』と彼女との事を言っていた夏弥を信じられると思うのも確か。