週末の薬指
「紅花は、あんたのお父さんと最初で最後の恋愛をして、そしてあんたを遺したんだ。
……できれば、その事をあんたのお父さんに伝えたかっただろうけど、彼はあんたが生まれてからしばらくして死んだんだよ。……彼も病気でね」

「え?病気……?」

「ああ、心臓が悪くて入院してたんだ。同じ病院に入院していた紅花と知り合って恋に落ちて。で、妊娠」

「じゃ、私の事は……」

「紅花が妊娠していたことは、きっと知らなかったはずだよ。その事を告げたら出産を反対されると思って、紅花は黙って姿をくらまして。命がけだったっていうのは言葉通り、本当だ。でも、やっぱり、ちゃんとあんたが生まれた事を伝えておくべきだったね……。
先方のお父さんお母さんだって、孫を見たかっただろうしね」

話される内容は重くて苦しいのに、おばあちゃんはどこか笑っていて、あっさりした口調。

母さんの人生を振り返って、私に告白するにはそぐわない声音に首を傾げてしまう。

「紅花が私よりも早くこの世からいなくなるっていうのは、彼女が小さな頃から覚悟していたんだよ。
きっと、人生の何もかもを諦めて、楽しみも喜びも、味わうことなく散っていくんじゃないかと不憫に思っていたけどね、……花緒という生きた証をこの世に残せるような恋愛ができたんだ。紅花は幸せだったと思うよ」

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