週末の薬指
俯きがちにそう呟くと、そっと私の手を握ってくれた夏弥。

視線を移すと、優しく笑ってくれていた。

そんなこと、どうでもいいよ、と瞳が教えてくれてるようでほっとする。

けれど、そんな私の気持ちを無視するように、蓮さんは冷たい声でさらに続けた。

「夏弥がどれだけ必死であんたを追いかけてたか……まあ、それは夏弥の勝手だといえばそうだけど。
それでも、夏弥のその思いをちゃんとわかってるようには見えないんだよな。じゃなきゃ、マスコミに煽られて携帯の電源切ったりなんてしないだろ。
……本当、あんたに夏弥はもったいない」

「あ……。うん……」

手厳しい蓮さんの言葉に、何も言い返せずにいると、それまで聞くだけだった夏弥が口を開いた。

「蓮、いい加減にしろ。俺が勝手に花緒に惚れて思い続けてただけで、花緒はそんな俺の気持ちをようやく受け取ってくれたんだ。俺にはそれだけで十分だ」

「……ふん。ま、せいぜい幸せになれるように頑張れよ」

蓮さんは、夏弥に向かって、拗ねたようにそう言って、口をきゅっと結んだ。

どこかまだ不安が残っているような、そして何か言い足りないような顔。

蓮さんは、自分とは反対の夏弥のすっきりとした表情をしばらく見ていたと思うと、視線を揺らして、ためらいや迷いを隠せないまま、私をぐっと見つめた。

また何か厳しい事を言われるのかと、はっと身構えると。

「頼むから、夏弥を悲しませたりしないでくれよ。俺と希未みたいに、幸せになってくれ」

私の予想に反して、とても静かで優しい声が届いた。

その言葉には、今まで蓮さんから私に投げられた鋭い感情の意味全てがそれに集約されているような、そんな気がした。
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