週末の薬指
どうにか、小さな声でそう呟く私の言葉を遮って、

「俺の恋人になって欲しいんだけど。初めて会った時から、気に入ってた。じゃなきゃ携帯の番号なんて教えないよ。気付かなかった?」

余裕が感じられる声音。

まるで言い聞かせるような落ち着いた声は、私の混乱を更に煽る。

「気に入ったって言われても……。私は、そんなつもりじゃ」

「じゃ、そんなつもりにさせるから、俺と付き合ってよ。花緒」

え?
これまで『俺』なんて言ってなかった。それに、私の事を呼び捨てになんてしなかったのに。
どうして突然変わっちゃったんだろ。

その変化についていけなくて、ただ瀬尾さんを見返していると。

「今の俺が本当の俺。この前の俺は、営業用。あ、でも、木内のおばあちゃんの事は大好きだし、大切に思ってるから安心して。お金持ちのおばあちゃんから無理矢理契約取ろうなんて思ってないし。
そんな事しなくても、ちゃんと営業成績トップは維持できるから」

ニヤリと笑った瀬尾さんは、そんな素の姿を隠そうとしないまま、

「とりあえず、美味しい料理を食べながら、花緒の事、色々教えてよ。ね」

それ以外選択肢がないように、笑った。

そんな、初めて見る瀬尾さんの表情にも、ときめいてドキっとしてしまう私。

これから一体どうなっていくんだろうと、不安でいっぱいになった。
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