週末の薬指
どちらかというと、人前に立ったり自分から何かをリードする事が苦手な私は、周りに合わせながら生きてきた。
協調しながら、波風を立てずに淡々としている事が、私にとっての生きやすい方法だった。
いつも私の為に気持ちを寄せてくれて、力を注いでくれたおばあちゃんが喜ぶ事にも気を配りながら、ひっそりと生きてきた。

人からあれこれと指示されることにも苦痛を覚えることなく、はむかう事もなくこれまでを過ごしてきたけれど、今私に起こっている事を、あっさりと受け入れていいのかどうか、悩んでしまう。

というか、冷静に考えると悩む事が当たり前なんだろうけど。

瀬尾さんと二人、手を繋いで歩いているのって、やっぱりおかしい。

「あの……酔ってますか?」

駅から我が家までの道を、ゆっくりと並んで歩きながら、思い切って聞いてみた。
当たり前のように手を繋いでいる瀬尾さんを見上げると、瀬尾さんはくすりと笑って、私に視線を落とした。

「あれくらいじゃ酔わないよ。それに、酔ってなきゃ手も繋げないほど若くない」

「あ……はい」

「花緒も、お酒強いんだね。見た目は飲みそうにないのに、結構飲むから意外だったよ」

思い出したように呟いた瀬尾さん。少し嬉しそうにも聞こえる。

「そうですね。お酒は、おばあちゃんに鍛えられました、ああ見えて、おばあちゃんザルなんですよ。
飲み会で私がお酒に潰れないようにって鍛えられました。おばあちゃんからの遺伝もあるみたいですけど」

「へえ、じゃ、コンパなんかでお持ち帰りされた事もないわけ?」

私の顔を覗き込みながら、からかうように聞いてくる瀬尾さんは、相変わらず私の手を握りしめたまま。

今にも額と額がくっつきそうで、お酒じゃなく、その近い距離に酔いそうだ。
なんだかくらくらする。
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