週末の薬指

3

その日は終業時刻を待たずに早めに仕事を終わらせるよう課長から指示された私は、一旦家に戻った。

パーティーに合う服に着替えてから再び出かけなきゃいけないけれど、パーティーに出席するなんて機会、これまでだって滅多になかったから何を着ればいいのかと頭が痛い。

とりあえずスーツでいいと秘書課の女の子からの伝言を貰っていたけれど、それでもどんなスーツがいいんだろうと悩む。
通勤用のスーツじゃ華やかさもないけれど、会社のイベントに違いないパーティーに華美に装い過ぎるのもどうかと……。

弥生ちゃんみたいに決断力と自信が欲しいな。

彼女みたいに見た目華やかなら何を着ても似合ってしまう。
せめて社長賞発表の翌日にパーティーを催してくれればいいものを、当日早速あるなんて困るよ……。

髪型だってどうしよう。美容院に行く時間すらない。

会社から家までの帰り道を足早に歩きながら、悩みに悩んでため息ばかり。

家に着いた時にはその焦りと悩みが露骨に表情に出ていたんだろう。

『あら、とうとう瀬尾さんに捨てられたのかい?』

私の顔を見た瞬間におばあちゃんは苦笑しながらそう言った。

冗談じゃない。

むっとした私に、おばあちゃんは首を傾げながら、

『そうじゃなければ何をそんなに悩む事があるんだい?一番大きな悩み以外は悩みじゃないんだよ』

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