週末の薬指
私の肩をポンと叩くおばあちゃんの目尻のしわが、『ばかだね』とも伝えていた。

年の割には見た目も気持ちも若いおばあちゃんだけど、見慣れないしわに気づいてどきっとした。

私が年を重ねた時間と同じだけ、おばあちゃんだって毎日を生きていて、目じりにしわもできるし白髪だって増える。

私よりもきれいなアッシュブラウンに染められている髪の艶は、いつも変わらないけれど。

おばあちゃんだって、年を重ねている。

それでも、そう見せない強さと努力が彼女にはあって、今のおばあちゃんなんだ。

何事にも動じないけれど、それは動じないのではなくて動じない自分を演じているのかもしれない。

孫である私を育てる使命を背負って、悩まなかったわけはないし苦労だってかなりあったはず。

そんな私の家族であるおばあちゃんを誇りに思える。

そして、私の悩みがちっぽけ過ぎておかしくなる。

「早くに仕事が終わったんだね。夕飯だってまだこれから準備しようと思ってたんだけどね」

「うん。準備がまだならちょうど良かったんだけど」

「……何かあるのかい?あ、瀬尾さんと会う?泊まってくれてもいいよ。おばあちゃんの事は気にしないでいいからね」

くすりと笑って、おばあちゃんはリビングのソファに腰掛けると、編みかけのレースを手にした。

真っ白なレースで編まれていく模様は花柄で、私の結婚式の時の手袋にしたいと張り切っている。

朝見た時よりも模様が大きくなっているのに気付いて、どれだけ頑張って編んでくれてるんだろうかと胸がいっぱいになる。

結婚式の日取りすら決定していないし、夏弥のご両親への挨拶も済んでいないのに、気が早すぎる。

「あのね、これからおばあちゃんもAホテルに一緒に来て欲しいんだけど」

社長賞のお祝いのパーティーに家族を同伴していいのなら、絶対におばあちゃんを連れていこうと、会社にいる時からずっと考えていた。

これまで唯一の家族として私を育ててくれたおばあちゃんに、私の人生で最初で最後かもしれない華やかな場所に来てもらいたかった。

「……Aホテル?」

驚いたように私に視線を向けて、編み物の手を止めたおばあちゃんの低い声。

「そうだけど、Aホテルがどうかしたの?」

「え、いや、なんでもないよ。……あんな高級ホテルに行こうなんて、身の丈に合ってないしどうなのかいって思ってね」
< 183 / 226 >

この作品をシェア

pagetop