週末の薬指
Aホテルのロビーに入った時、その豪華さに目を奪われた。

落ち着いたブラウンのイメージで統一された空間は広くて、一面窓ガラスとなっている向こう側には鮮やかにライトアップされた噴水も見える。

深い紫を基調とした制服に身を包んだ係の人に案内されてエレベーターに乗ると、

「先ほど社長様がお部屋にお入りになりました」

気を遣うように声をかけられた。

「え?もう?……いつもイベントには誰よりも嬉しそうに早く来るけど……社員の焦りを考えて欲しいよ」

思わず小さな声で愚痴をこぼしてため息を吐いてしまう。

そう、社長は根っからのお祭り好きで、社内のあらゆるイベントに顔を出す。

部署ごとの忘年会ですら日程の許す限り参加しては楽しんでいる。社員との親睦こそ社長の使命だと、口癖のように言っている。

まるでそれが社訓のように。

「何度かお目にかかった事がありますが、今日も社長様自らテーブルやマイクの位置を指示されていました。
明るくて楽しそうなお方で、ホテルの従業員の間でもファンは多いんですよ」

「はあ。……そうなんです。明るくて楽しくて……涙もろくて……」

そして何事も勢いで突っ走る、いい社長と言えばいい社長なんだけど……。
たまに振り回されると疲れて仕方ない。

今日の社長賞だっていきなり通達してきたかと思えば当日突然にお祝いのパーティーだからなあ。
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