週末の薬指
普段、悲しい事や落ち込む事があった時でも、仕事に集中していれば気持ちをそらす事ができるけれど、今日はそれが無理だと思った。
残業メンバーでは常連の私なのに、今日だけは少しでも早く会社から離れて、解放されたかった。
わかっていたことだとはいえ、昔付き合っていた人が結婚するという話を聞いて、簡単には笑えなかった。
結婚する相手が、私と同じ部署の後輩となれば尚更の事、気持ちは落ち込むに決まっていて。

『おめでとう』

そう言うだけでかなりの精神力が必要だった。
私と彼が別れて、4年も経っているから気持ちは既に離れている。
特に未練があるわけでもないし、彼とよりを戻したいとは思わない。
多分『やりなおそう』と言われたとしても受け入れる事はないと思う。
彼との恋愛はとっくに終わっていて、それぞれに新しい時間が流れていたんだから、彼の結婚を純粋に喜べばいいのにそれができない。

自分ってなんてダメな女なんだろう。

自分の立場を考えれば、結婚できるなんて思うのがおかしいのに。
遠い昔に諦めているのに、どうして彼の幸せを喜んであげられないんだろう。

駅に向かうまでに、何度ためいきをつけばいいんだろう。

いつも終電近くに電車に飛びのる私が、このまま家に帰ると、きっとおばあちゃんはびっくりするんだろうな。
どこかに寄って時間を潰そうかな……。

そうぼんやりと考えるけど、悲しい気持ちを抱えている今こそ、おばあちゃんのご飯が食べたくて仕方がない。
たまに早く帰っても、別にいいよね。うん、帰ろう。

春のにおいがする夕方、大きく息を吐いて、気分を変えて。

駅までの道を再び歩き出した。

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