週末の薬指
「うちの会社、製薬会社だろ?病で苦しむ人を近くで見たり、弱い立場にいる人を助けたいって思う人間が多いんだ。そんな会社の中で、理不尽な理由で花緒さんを苦しめるような悠介を安易に受け入れる人は少ない。だから、気にするな。世の中は敵ばかりじゃない」

「渋沢さん……私の事……」

「ああ。悠介が言いまわってたからな。社員のほとんどは耳にしたんじゃないか?
……それでも、弱者を守るための仕事をしている俺らが花緒さんを見捨てるわけがない。だろ?」

思いがけない言葉が連なって、どう答えていいのかわからない。

ほんの少ししか離れていないところにいる悠介とその家族からの視線も気にならなくなる。

そして、私を見守ってくれる夏弥とシュンペーの温かい存在だけに気持ちは傾いていく。

「社長だってそうだ。……ああやってこの日をはしゃいでるのはきっと、友達のためだ」

「友達?」

涙がこぼれそうな私の声は鼻声になってる。

それにくすっと笑いながらも、渋沢さんは社長を見ながら話を続けてくれた。

「社長の友達……詳しくは知らないけど、友達のお兄さんだったかな。若くして心臓の病気で亡くなったらしい。自分は製薬会社の御曹司なのに、そのお兄さんを助ける事もできなくて自分の無力さに絶望したことがきっかけでこの会社を必死で盛り上げたらしいぞ。
病気で亡くなったり、苦しむ人を少しでも減らしたくて、その為には社員が過ごしやすく、研究しやすい会社にしようと、今まで頑張ったって。……嫁さんが言ってたんだけどな。受付だから何かと会社の情報が入るらしいわ」

「友達のお兄さん……心臓の病気……」

それはきっと、ううん、絶対私の父さんの事だ。

父さんが心臓の病気で亡くなった時、社長は近くにいてくれたんだ。

そして、それがきっかけでこの会社を盛り上げて。

私がその社長の思いに寄り添って、大きな成果をあげる事ができたなんて。

奇跡のようだ。

とうとう流れてきた涙を手の甲でがしがしと拭って、まさに今目の前に来た社長を見つめた。

隣に並んでいる秘書さんから渡された社長賞の記念品をまずは渋沢さん、そして私に渡してくれた。

「ご苦労だったね。長い間の苦労が実って、ようやく次の段階に進めたよ。きっと、このプロジェクトの頑張りのおかげで、病気で苦しんでいる多くの人が未来への希望を持てると思う。本当に、ありがとう」

そう言って、ぎゅっと私の手を握りしめてくれた社長の手は、温かかった。

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