週末の薬指
* * *
夜が明けて、一旦家に帰って着替えた後で出勤しようと思って慌てていた私に、
「着替えなら幾つか用意してある。気に入った服があれば着て行けば?」
そう言って、夏弥は寝室のクローゼットを開けてくれた。
営業職だけあって、スーツがずらっと並んでいる横に、無理矢理作ってくれたかのようなスペース。
黒や紺という落ち着いた色合いの中に、何故か明るい色がいくつか浮き出ていた。
「えっと……これって」
近くで見ると、どう見ても女性用のスーツが3着かけられている。
ベージュのパンツスーツと淡いイエローのワンピーススーツ。そして、
『む、無理』と後ずさるほど短めで、それでいてかわいい薄いピンクのタイトスカートのスーツ。
「これ、どうしたの?」
ぼんやりとそう聞きながら、ふと思うのは、夏弥が前に付き合っていた恋人の置き土産?
このマンションで同棲していて、こうしてクローゼットも共有していた?
まさか、そんなものを大切に取っておいて、私に着ろとでも?
……違うよね。まさかね。
どこか曖昧に笑いながら、夏弥を見ると、そんな私の気持ちを察したのか、苦笑しながら
「正真正銘、俺が花緒の為に選んだ服だ。蓮が嫁さんに服をプレゼントする時に使う店を紹介してもらって俺が選んだんだよ。今日みたいに花緒が泊まった朝でも慌てないで済むように」