週末の薬指
どうだ、とでも言いたげな強気な言葉に驚いた私は、スーツと夏弥を交互に見遣った。
私の為に用意してくれた服?夏弥がわざわざ選んでくれたの?
「女の服を買うなんて初めてだったから、戦々恐々。でも意外にいいもんだな。夕べ服も何もかもを脱がせて、朝になったら俺が選んだ服を着せて。本当に俺が作り上げたって感じだ」
「作り上げたって……」
その言葉に思わず照れた。夕べからずっと、夏弥に甘やかされてばかりだ。
「夏弥、優しすぎるよ……」
満足そうに笑った夏弥は私の横に立つと、そっと私の腰を抱き寄せてくれた。
そして、耳元で小さく笑い声をあげると。
「俺個人としては、このミニスカートが好みだけど、わざわざ花緒の綺麗な足を他の男に見せる事もないか。今日は、この黄色にしろ」
夏弥から受け取った黄色のワンピーススーツ。
どんな顔してこれを選んだんだろうと、夏弥の顔をにやりと見つめた。
けれど、嬉しそうに、ただ嬉しそうに笑う夏弥の顔は、そんな事どうってことないって余裕だ。
「指輪もちゃんとつけていけよ。周りに見せつけてやれ」
「うん。……ありがとう」
ふふふ、と笑って、手にしたスーツをぎゅっと抱きしめた時、つけっぱなしにしていたリビングのテレビから聞こえてきたのは。
『美月 梓が電撃入籍しました』
何度も繰り返す、大きな叫び声だった。