週末の薬指
私の頭をぽんぽんと軽くたたいてにやりと笑う夏弥と目が合った。

きっと涙も目に浮かんでいるに違いない私の顔を見て、夏弥は満足そうな声をあげておまけに口元は緩んでいて。

夏弥をいい気分にさせたんだと気づいて一層いらいらとした。

「だって、噂の相手は夏弥だって自分で言った」

年甲斐もなく拗ねたような声が出るけれど、そんなの脇において、ずっと気になって我慢していた思いが止まらない。

出張で沖縄に行っている夏弥が巻き込まれた美月 梓のスキャンダル。

どれだけ私がショックを受けたのか、夏弥は理解してないんじゃないかと思うと本当に切ない。

私一人が必死に夏弥を想っているみたいで泣きたくなる。

私のそんな必死な想いを感じて、さすがに焦ったのか夏弥は私の肩を掴むと。

「確かに噂になっていた『住宅会社の営業マン』は俺の事だけど、それは噂の相手であって、美月梓が熱愛している本当の相手は『住宅会社の営業マン』じゃないんだ」

「え?えっと……ちょっと意味がよくわからない……あれ?」

「落ち着けよ、結局、梓が付き合っていたのは『営業マン』ではなくて『宣伝マン』だ。
俺と同期の曽川隆平。うちの宣伝部のエースで、CMを担当している。だから、梓と接する機会も多かったんだ。
で、二人は恋人同士になってこの度結婚に至るってわけだ」

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