週末の薬指
夏弥いわく、
『結婚しない女性にはそんな機会がないのに、わざわざ慣例化させるなんて今時ずれてないか?仕事に集中して結婚しない女性や、事情があってできない人だっているだろうし、おかしな会社だな』
だそうだ。
確かに、私もそれには同意するけれど、社長の信条は『家族あっての仕事』だから、家族を作るという意味での結婚は、大いに喜ばしい事で、何はさておきとにかくお祝い。これに尽きる。
確かに、結婚だけが人生の全てではないし、この慣例によって切ない思いを私もしてきた。
それでもやっぱり、愛する人を見つけて、愛されて、それが他の誰でもない夏弥だから、みんなに知らせたい。
『夏弥と結婚するんだよ』
って。
だから早く会社に行かなきゃ。
早く指輪をはめて会社に行かなきゃ。
そう思って焦る私の様子に苦笑して、夏弥はこれまでの美月梓との関係を話し始めた。
「最初に梓と会ったのは仕事で。ってのは前話したよな?で、俺は彼女に気に入られて宣伝部に呼ばれて、したくもない仕事をしてたんだけど。その間も梓の事はしっかりと拒否してたから彼女も諦めてくれたんだ。その気持ちは今も変わってなかった。彼女は俺の事をもう何とも思ってない」
「でも、この前マンションの下に来て待ってたよ。彼女は夏弥を待ってたんでしょ?」
「ああ、俺を待ってたんだ。それはその時本人から聞いた。でも、待ってた理由ってのは花緒が思ってるものとは違うんだ」
「違うって?」